ガレリア・イスカ通信

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2018年 06月 08日

キース・ヘリングのカバーアート「Rap it」(1983)

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今年生誕60年を迎えるキース・ヘリング(Kieth Haring, 1958-1990)が初来日を果たした1983年に手掛けたカバーアート。キース・ヘリングの名前はどこにもクレジットされていないが、同じ年にリリースされたマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren, 1946-2010)のアルバム「Duck Rock」(Charisma Records Ltd.)と並び、カバーアートとしては最初期のもの。イメージの源泉は歌の歌詞にあるのだろうか。飛び跳ねる二羽の兎がヘリング独特の太い線で描かれているのだが、普段見慣れているヘリングのスタイルとは異なるため、言われなければヘリングのドローイングとは気付かないかもしれない。アルバム・タイトルや曲目等のテキスト部分や下地はヘリングによるものではない。恐らくカバーの裏面を担当したグラフィティ・アーティスト(graffiti artist)のフューチュラ2000(Futura 2000)によるものであろう。欧米では現代美術の作家によるカバーアートがポスターなどと同様、ひとつの表現形式として認知されつつあるが、日本での評価は依然として中古レコードの範疇を超えていないように思われるので、まだまだ蒐集の機会は残っている。

●作家:Keith Haring(1958-1990) & Futura 2000(Leonard Hilton McGurr, 1955-)
●種類:Cover Art
●題名:Rap it
●サイズ:312x312mm
●技法:Silkscreen
●レーベル:Celluloid(cell 1), Celluloid(vr 22577)
●レコード会社:Boudisque(vr 22577)(註1), Amsterdam
●制作年:1983
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カバーの裏側はニューヨークの地下鉄車両へのスプレー缶を使った“落書き”から頭角を現したグラフィティ・アーティスト、フューチュラ2000によるもの



註:

1.
Record company established by the Amsterdam record store Boudisque in the early 1980's. Initially, releases were licensed from such labels as K422, Factory, Rough Trade, 4AD and others. Boudisque used the original cat. no's for these releases, but they can be recognized by the number that the pressing plant (CBS Records) used, usually starting with 08- or VR, plus: the labels almost always show "Made in Holland".

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# by galleria-iska | 2018-06-08 18:50 | キース・へリング関係 | Comments(0)
2018年 05月 19日

シャルル・メリヨンの銅版画「Pêcheurs de la Mer du Sud」&「La Brebis et les deux agneaux」(1850)

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晩年に知人を介して知己を得、何度か食事を共にした愛書家で美術史家の故気谷誠(Makoto Kitani, 1953-2008)が愛した作家のひとり、銅版画家シャルル・メリヨン(Charles Meryon, 1821-1868)は1821年、イギリス人の内科医の父とオペラ座の踊り子だった母の間に生まれる。1837年にフランス海軍学校に入学、1839年から1846年にかけて、コルベット艦ル・ラン(Le Rhin)に乗船、世界各地(ニュージーランド、ブラジル、タヒチ)を航海する。1948年に退役後、絵を学び始めるが、色覚障害のため画家の道を諦め、銅版画家ウジェーヌ・ブレリ(Eugène Bléry, 1805-1886)の工房に入り、オールドマスター、殊にオランダ17世紀の海洋画家ゼーマン(Zeeman)こと、レイニエ・ノームス(Reinier Nooms, ca. 1623-1664)や動物画(特に羊)を得意とするアドリアーン・ファン・デ・ヴェルデ(Adriaen van de Velde, 1636–1672)の模刻を通してエッチングの手法を身に付ける。その成果は早速メリヨンの最初のオリジナル作品「Le Petit Pont」(1850~)に現れ、1850年から1854年にかけて制作した22点の連作版画集『パリのエッチング(Eaux-fortes sur Paris)』に結実する。

今回取り上げるのは、フランス19世紀の挿絵入り週刊誌『L'Artiste』ために、前述のゼーマンの原画「南の海の漁師たち(Pêcheurs de la Mer du Sud)」とファン・デ・フェルデの原画「雌羊と二匹の子羊(La Brebis et les deux agneaux)」をもとにしたエッチング2点を一枚の紙に刷ったもので、それぞれ第二ステートである。前者に関して言えば、画面左下に刻まれたメリヨンのモノグラム・サイン(C.M.-)が第二ステートでは"M."の後に"éryon"が別人の手で加えられ、"C.M.éryon"(註1)となっており、その刷りが東京の国立西洋美術館(The National Museum of Western Art, Tokyo)にも収蔵されている。ところが、この刷りでは、変更前の"C.M.-"のままであり、茶色のインクを用いて刷られた決定段階の前の試し刷りではないかと思われる。

●作家:Charles Meryon(1821-1868)
●種類:Print
●題名:"Pêcheurs de la Mer du Sud(South Sea fishers )", d'après Zeeman & "La Brebis et les deux agneaux(The ewe with two lambs)", d'après Adriaen Van de Velde
●サイズ:313x232mm(Pêcheurs de la Mer du Sud, 68x122mm, La Brebis et les deux agneaux, 79x105mm)
●技法:eaux-forte(etching)
●発行:La revue L'Artiste(une revue hebdomadaire illustrée française publiée de 1831 à 1904)
●制作年:1850
●目録番号:Schneiderman 18 & 8
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Pêcheurs de la Mer du Sud, 68x122mm, 1850(Schneiderman 18)
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La Brebis et les deux agneaux, 79x105mm, 1850(Schneiderman 8)
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註:

1.
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図版:第一ステートではモノグラム・サイン(C.M.-)だったものが、"M."の後に"éryon"が別人の手で加えられ、"C.M.éryon"となった第二ステートの決定段階の刷り(部分)。
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# by galleria-iska | 2018-05-19 14:47 | その他 | Comments(0)
2018年 05月 08日

ポール・デルヴォーのポスター「Paul Delvaux œuvre gravé - grafishe werk」(1972)

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ルネ・マグリット(Rene Magritte, 1898-1967)とともにベルギーのシュルレアリスムを代表する作家ポール・デルヴォー(Paul Delvaux, 1897-1994)が本格的に版画制作に取り組むのは、齢70間近(日本で言えば古希ということになる)の1965年後半からで、その制作方法は、版画工房に入り、石版に直接描画するというものではなく、転写紙を用いたものが大半である。それはベルギーのブリュッセルから版画工房のあるパリまで出掛けることさえ“彼にとっては何週間も考えあぐんでしまう大旅行”といわれる程であったからのようだ。版元となったのは美術史家のミラ・ジャコブ(Madame Mira Jacob Wolfovska, 1912-2004)が1955年にパリ六区セーヌ通りに開いた、19世紀後半から20世紀のデッサンや水彩、版画を専門とする画廊バトー・ラボワール(Galerie le Bateau-Lavoir, Paris)(註1)であった。リトグラフの刷りはムルロー工房で行われている。

今回取り上げるのは、日本では滅多に紹介されることのない、ジェームズ・アンソール(James Ensor, )がその生涯の大半を過ごしたベルギーのフラマン語圏に属する北海沿岸の海岸リゾート地、オースデンデ(Oostende)の画廊(Galerie L'Orangerie, Oostende)で1972年に開催されたデルボーの版画展(Paul Delvaux œuvre gravé - grafishe werk)の告知用ポスターである。テキストはフランス語とフラマン語の併記となっている。このポスターには通常版(註2)と限定版の二つヴァージョンがあり、今回のものは限定版の方で、展覧会のオープン時にされたものと思われるのだが、デルヴォーがボールペンを使って署名と日付を書き入れている。契約画廊との版権の問題によるものかもしれないが、ポスターには版画作品ではなく、デルヴォーの原画が使われており、印刷には、ライン・ブロックと呼ばれる、凸版エッチングに写真製版を用いた技法が使われている。

●作家:Paul Delvaux(1897-1994)
●種類:Poster
●サイズ:496x321mm
●技法:Line block
●発行:Galerie l'Orangerie, Oostende
●限定:125 + 10 H.C.
●制作年:1972
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                      《P. Delvaux, Oostende le 5 8(Aout), '72》
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註:

1.画廊の名前は20世紀初頭に、ピカソやモジリアーニ、ヴァン・ドンゲンらの画家が居住しアトリエを構えたモンマルトルにあった安アパート“洗濯船(Le Bateau-Lavoir)”から取られている。洗濯船と名づけたのは詩人で、画家、評論家でもあったマックス・ジャコブ(Max Jacob, 1876-1944)。故ジャコブ女史の交友関係は、画家や詩人、評論家(Georges Braque, Marc Chagall, Alberto Giacometti, Paul Delvaux, André Breton, René Char, Jean Paulhan, Jean Cassou)など多岐に渡っている。

2.
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図版:テキストの配置を変えてデザインされた通常版のポスター、470x320mm。



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# by galleria-iska | 2018-05-08 19:59 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2018年 05月 04日

ホルスト・ヤンセンの図録「Zeichnungen-Horst Janssen, Fotos-Thomas Höpker」(1967)

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以前から気になっていた写真の撮影者を特定してみたく取り寄せたのが、この図録。ホルスト・ヤンセン(Horst Janssen, 1929-1995)が1967年にハンブルクの契約画廊ブロックシュテット(Galerie Brockstedt, Hamburg)で行った素描の展覧会に際して刊行されたもの。その中にハンブルクの印刷所ハンス・クリスチアンズ(Hans Christians, Hamburg)で職人たちが掲げる刷り上ったばかりの亜鉛版エッチングによるオリジナルポスターと共に写るヤンセンの姿を捉えた写真があるのだが、この写真が何故か日本で1983年に行われたヤンセンのポスター展の図録の表紙(註1)に使われていたのである。最初、ヤンセン自身がこのような構図を設定し撮影を行ったのかと思っていたのだが、この図録を取り寄せてみて、その撮影者が後年、写真家の権利と自由を守り、主張することを目的とし、1947年にロバート・キャパ、アンリ・カルティエ=ブレッソンらによって結成された国際的な写真家集団マグナム・フォト(Magnum Photos)集団に正式参加することになるミュンヘン生まれの写真家トーマス・ヘプカー(Thomas Höpker, 1936-)(註2)であることが判った。この図録はヤンセンとヘプカーのコラボレーションの成果であり、ヤンセンの15点の近作素描とヘプカーによる13点の写真が収録されている。被写体の中心は、ヤンセンとその家族、1960年に結婚、1968年に離婚するヴェレーナ・フォン・ベートマン=ホルヴェークと二人の間に生まれた息子フィリップで、他に印刷所や酒場、収集家たちとの場面が収められている。荒れた粒子やブレ、また強いコントラストは、ドキュメント色の強いこの時代の写真の潮流だったように記憶する。

図録の装丁はヤンセン自身が行っており、そのアイデアは1969年にメルリン出版から刊行された、亜鉛版エッチングの挿絵とヤンセン自身のテキスト(詞書)からなる二冊の絵草紙「Hensel und Grätel」と「Paul Wolf + die 7 Zicklein」のそれへと繋がっていく。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Catalogue
●サイズ:331x238mm
●発行:Galerie Brockstedt, Hamburg
●印刷:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1967
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印刷所の職人が掲げ持っているのは、刷り上ったばかりの、1966年にドイツ南西部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州の州都であるシュトゥットガルト(=シュツットガルト)のヴェルテンベルグ芸術協会(Württembergischer Kunstverein Stuttgart)で開催されたヤンセンの回顧展の告知用ポスター「Württembergischer Kunstverein Stuttgart」(註3)である。
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テキストの英訳:Photos: Thomas Höpker. The photos were taken in 1966: in the Warburgstr. 33((in and in front of the Janssens apartment house), in the Print shop Christians, in the pub, in the garden of the collector Siegfried Poppe, in the House of the collector Klaus Hegewisch and in the Galerie Brockstedt...


註:

1.
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1983年に宮崎県都城市の市立美術館で開かれた「Horst Janssen Plakate - ホルスト・ヤンセン ポスター展」(主催:都城市教育委員会、大阪ドイツ文化センター、宮崎大学映像を考える会)の図録。
●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Catalogue
●サイズ:250x265mm
●技法:Offset
●発行:Goethe-Institut Osaka, Osaka
●制作年:1983
表紙に使われたのは、ヤンセンが1960年代後半に集中して制作した亜鉛版エッチングによるポスターの制作現場であるハンブルクの印刷所、ハンス・クリスティアンズ(Hans Christians, Hamburg)で撮られた上掲の写真の一部。

2.トーマス・ヘプカー(Thomas Höpker, 1936-)はドイツ ミュンヘン生まれの写真家。現在はニューヨーク在住。ゲッティンゲンとミュンヘンの両大学で美術史と考古学を学び、卒業後1960年から63年まで雑誌(Münchner Illustrierte and Kristall)のスタッフ・フォトグラファーとして世界中を取材。1964年にはドイツの写真ニューズ誌『シュテルン(Stern)』の専属写真家となり、マグナム・フォトが写真の配給を始める。1968年、フリーの写真家となる。1978年からアメリカ版『GEO』誌のフォトディレクターを4年努め、1987年に一度ドイツに戻り、『シュテルン』にアートディレクターとして迎えられる。1989年、再びニューヨーク市に戻り、マグナムの正会員となる。2003年から2006年までマグナム・フォトの会長を努める。

3.
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●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Württembergischer Kunstverein Stuttgart
●サイズ:847x594mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 19
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# by galleria-iska | 2018-05-04 12:29 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)
2018年 04月 18日

サム・フランシスのポスター「Sam Francis Métaphysique du vide(II)」(1986)

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今回取り上げるのは、前回取り上げたポスターと対になるポスターで、こちらもパリの出版社フランシス・ドリル(Éditions Francis Delille, Paris)が、美術にも造詣の深いフランスの著作家ミシェル・ワルドベルグ(Michel Waldberg, 1940-2012)が1986年に著したアメリカの抽象表現主義に流れを汲む作家サム・フランシス(Sam Francis, 1923-1994)の1951年から1986年までの油彩とアクリルのよる絵画作品集「Sam Francis Métaphysique du vide」(Coll. Philosophie de Arts)の刊行に合わせて、広報用に出版したオリジナル・リトポスターである。同じ出版社から同年出版されたサム・フランシスのリトグラフによる6点組の版画集「Michel Waldberg:Poèmes dans le ciel」 所収の作品(Untitled, Lembark 273)(註1)と同じ版を用いて刷られている。印刷はパリのデジョベール工房(Atelier d'Art Desjobert, Paris)で行われ、通常のポスター用紙ではなく、透かしが入っていないので特定はできないのだが、薄手の版画用紙が使われている。

こちらのポスターでは、大きな余白は取られておらず、画面の中央付近を斜めに横切る抽象表現主義的な太く力強い描線が、ドリッピングによる即興性や偶然性に支配される空間に楔を打ち込んでいる。この作品を見ていると、サム・フランシスの技法は、染みのような表現を特徴とするタシシムのようなフランスのアンフォルメルを基点に、ジャクソン・ポロックのドリッピングの手法と抽象表現主義運動の創設者とされるロバート・マザーウエル(Robert Motherwell, 1915-1991)などのような無意識(Spontaneous)の描線などがミクスチュアされ、そこに東洋的な間(余白)の美学を加えることで他者にはないスタイル(画風)を築き上げたと見るべきか。とすると、鮮烈な色彩は逆にその間にある白を意識させるための演出として見ることもできるのかもしれない。

●作家:Sam Francis(1923-1994)
●種類:Poster
●題名:Sam Francis Métaphysique du vide(2)
●サイズ:843x558mm
●技法:Lithograph
●印刷:Atelier d'Art Desjobert, Paris
●発行:Éditions Francis Delille, Paris
●制作年:1986
●目録番号:Lembark 273(bis)
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註:

1.
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図版:リトグラフによる6点組の版画集「Michel Waldberg:Poèmes dans le ciel」 所収の作。Untitled(Lembark 273) from the portfolio "Michel Waldberg Poèmes dans le ciel" printed in colours, on Rives, signed in pencil, numbered(the total edition was 176), with text by Michel Waldberg, the set as published by Philosophie des Arts, Paris. 755 x 560mm

参考文献:

「The Prints of Sam Francis. A Catalogue Raisonné 1960 - 1990」(2vols)Francis, Sam and Connie W. Lembark. Introduction by Ruth E. Fine. Published by New York, Hudson Hills Press, 1992. Vol. I: Lithographs. Vol. II: Intaglio Prints, Screenprints, and Posters.
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# by galleria-iska | 2018-04-18 19:03 | ポスター/メイラー | Comments(0)