2012年 02月 28日
東欧、いわゆる旧共産圏の国の現代美術の動向は今でこそインターネットを通じて垣間見ることができるが、東西冷戦最中の状況は知る由もなかった。自由主義社会における思考や表現法とは異なる文法によって作られる作品は、地方や郷土作家に似て、その閉じた世界の中で成立しているかのような印象であった。そんな東側諸国の中で、ティトー率いるユーゴスラビア連邦人民共和国は、旧ソ連の衛星国とはならず、独自の社会主義路線を目指し、自主管理社会主義政策を推し進めた。芸術に関しても、1948年のコミンフォルム脱退以降、文化芸術を政府のプロパガンダの手段として用いる旧ソ連の社会主義リアリズム影響から徐々に脱却し、1952年にはユーゴスラビア初となる絵画の個展が開催されるなど、芸術家の自主性というものが尊重される方向に向う。1955年からスロヴェニアのリュブリアナ近代美術館を会場にリュブリアナ国際版画ビエンナーレが開催され、国際的な動向にも関心を向けていくこととなり、また1963年から国内の版画作家の育成を目的とするベオグラードのサークルによる版画展(Grafika beogradskog kruga)が1952年にユーゴスラビアの優秀な版画作品を収集するために設立されたGalerija Grafički kolektivを会場に開催され、この展覧会の受賞者は後に同国の版画界において指導的な立場に立つこととなる。 1971年の版画展の告知用ポスターをデザインしたのは、1936年に旧ユーゴスラヴィア王国、現在のボスニア・ヘルツェゴヴィナ(Bosnia and Herzegovina )のドラゴティニャに生まれ、ベオグラード美術アカデミー(後にべオグラード芸術大学に統合)で絵画を学び、卒業後はパリのジョニー・フリードランデル(Johnny Friedlaender,1912-1992)の版画工房に学んだ、画家で版画家、モザイク・アーティストでもあるブランコ・ミルス(Branko Miljus, 1936-)である。ミルスは西側の空気を吸った作家の一人であり、現在はベオグラード芸術大学の美術学部の専任教授として壁画を教えている。ミルスはこの年、ポスターの構図の元絵となったと考えられるアクリルによる「Po Icarus(Pad Ikara)」を制作、翌72年には、今度はこのポスターの構図を利用してシルクスクリーン版画「Sinbad sailor II(Sinbad morjeplovec II)」を制作しているのだが、このような作品制作の方法は、ミルスがパリに学んだ際に見聞した、エコール・ド・パリの作家達の方法論に倣ったものではないかと思われる。 ●作家:Branko Miljus(Branko Miljuš, 1936-) ●種類:Poster ●サイズ:707x500mm ●技法:Silkscreen ●発行:Galerija Grafički kolektiv(Graphic Collective Gallery), Beograd ●制作年:1971
by galleria-iska
| 2012-02-28 17:36
| ポスター/メイラー
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