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ガレリア・イスカ通信

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2016年 03月 31日

ウィリアム・クラインの図録「William Klein Schilder, fotograaf en filmer」(1967)

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フランスの画家、写真家、映画監督で、俳優でもあるウィリアム・クライン(William Klein, 1928-)が1967年、オランダのアムステルダム市立美術館で行なった絵画、写真、映画の展覧会『William Klein schilderijn, foto's, films』の際に作られたリーフレットタイプの図録(註1)。オランダ語表記であるため、日本ではあまり紹介されていないかもしれない。冒頭に挿し絵入りのクラインの年譜が設けられているが、その挿絵を担当したのは、クラインが脚本と監督を務めた長編映画「ポリー・マグー、お前は誰だ?(Qui êtes-vous, Polly Maggoo ? )」の制作に参加した、ベルギー出身のアーティスト(注2)、ジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)である。この年、フォロンは自身を代表する画集のひとつ「ル・メサージュ(Le Message)」を制作しているが、この画集に登場する外套を着た“帽子の男”が、クラインの名前を展覧会場に見立てた最後の挿絵にも観客として描き込まれている。帽子の男は“平凡な小市民”のメタファーとして描かれているのだが、そのアイデアの源泉は、フォロンが子供の頃に偶然発見したベルギーのシュルレアリスムの画家ルネ・マグリット(René Magritte, 1898-1967)が描く山高帽の男にあるかもしれない。マグリットは自分を平凡な勤め人に見せかけるために、毎日きまったように、スーツに山高帽という身なりで出掛け、スーツ姿のまま自宅で制作を行なっていたのであるが、マグリットは自分自身をも記号化していたのである。

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展覧会にはクラインの能書的な絵画作品とその抽象写真、刊行された四冊の写真集「New York, 1956」「Rome, 1957」「Moscow, 1964」「Tokyo, 1964」に収録された写真、前述の長編映画「ポリー・マグー、お前は誰だ?」やドキュメンタリー・フィルムなどが出品されているようだ。クラインの個人的な視点をもとに撮られた、それまでの写真ではタブーであった“アレ、ブレ、ボケ”を表現に取り入れた写真は、新しい写真表現を求めて1960年代後半に台頭してくる中平卓馬(Takuma Nakahira, 1938-2015)や森山大道(Daido Moriyama, 1938-)といった日本の写真家たちに影響を与えたとされる。図録に掲載された写真の一枚に、“ギューチャン”の愛称で呼ばれる、現在はニューヨーク市在住の現代美術家、篠原有司男(Ushio Shinohara, 1932-)が、クラインの前で、アパートの境のコンクリート塀にケント紙を貼り、グローブ代わりに手に巻きつけたシャツに墨汁をたっぷりと付け、ケント紙を殴りつけながら絵を描くというパフォーマンス(後の「ボクシング・ペインティング」)を披露する姿を捉えた写真があるのだが、クラインは人間を個々の人格としてではなく、時代が抱え持つ、もうひとつの“真実”を映し出す“もの”あるいは“現象”として捉えようとしているように見える。クラインの撮る何かに憑かれたような人間の姿は、個人であれ集団であれ、同じニューヨーク市生まれの写真家ダイアン・アーバス(Diane Arbus, 1923-1971)の一線を越えたそれとは異なる、何かしらの“狂気”を孕んでいるようにも見えるが、それらがクラインによって写真に取り込まれたときに放つ衝撃が、クラインの写真たる所以であろうか。

●作家:William Klein(1928-)
●種類:Catalogue(Stedelijk Museum Amsterdam Catalogue No.409)
●サイズ:275x186mm
●技法:Offset
●発行:Stedelijk Museum Amsterdam, Amsterdam
●制作年:1967
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註:

1.図録の表紙と同じ場所で撮られた写真(カラー)。クラインと息子のポーズが異なる。
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2.1950年代後半、漫画家から出発したフォロンは、1960年に入ると、「わたしは自分の好奇心に殺されそうだ」と語ったように、その活動範囲を広げ、雑誌の表紙やイラストレーションを手掛けるとともに、グラフィック・デザイナーとして、映画や演劇の広報ポスターをデザインしている。1960年代の後半には、映画制作にも参加、役者として舞台や映画にも出演する一方で、銅版画やシルクスクリーン版画の制作も始めている。

by galleria-iska | 2016-03-31 20:52 | 図録類 | Comments(0)


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