2016年 05月 23日
自画像は好みの画題のひとつである。偽らざる自己の姿を描くという行為は純粋な記録であると同時に、自身の内面を真摯に見据えた自己告白でもあるからである。ドイツ・ルネッサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーAlbrecht Dürer, 1471-1528)が始めたと言われる自画像は、最も身近なモデルとして、画中の出来事の目撃者として、また様々な歴史的英雄や宗教的人物に扮したものとして描かれる一方、画家としての自負はもとより、成功した人間の虚栄心や自己愛、宮廷画家といった地位誇示の反映として描かれることもあった。いずれにせよ、そこには画家の内面が不作為に写し出されており、人間という存在の諸相を観察できる格好の題材なのである。 20世紀最大の宗教画家と謳われるジョルジュ・ルオー(Georges Rouault, 1871-1958)もまた幾つもの自画像を残している。今回取り上げるのは、フランスのジャーナリストで美術、文芸、映画批評家のジョルジュ・シャランソル(Georges Charensol, 1899-1995)が1926年に著した『Georges Rouault: L'homme et l'oeuvre』の特装版100部(註1)に添えられたリトグラフによる自画像「Autoportrait II」である。この作品を手にするのは二度目で、最初のものは、1980年代の終わり頃だったと思うが、1976年に『ルオー版画作品(Georges Rouault The Graphic Work)』を著したサンフランシスコの画商で出版人のアラン・ウォフシー(Alan Wofsy Fine Arts)から500ドルで入手した。こちらはその後手放してしまったが、何年か前に運よくフランスの業者から200ユーロほどで再び入れることができた。この作品は、我々が良く知るフランスの版画用紙ではなく、局紙(Japon Impérial)という、少し黄身がかった和紙に刷られている。 ルオーは師であるギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898)の生誕100年に当たる1926年にリトグラフによる自画像を3点残しているが、それらは全て単に「Autoportrait」となっているため、区別を付けるために、便宜的にI~IIIの番号が付されている(註2)。これら3点が同時進行で描かれたものなのか、時期をずらして別々に描かれたのかはっきりしないが、顔の向きが多少異なっているものの、構図的には大きな違いはない。作品としては、横顔に近い角度で描かれた『回想録』所収の「Autoportrait I」が一番出来が良いとされている。この自画像や他の肖像画において、ルオーは人間の相貌が語る本質的なものを求め、熱意と情熱を原動力とする妥協を許さない集中力と忍耐によってグラッタージュと呼ばれる削除やクレヨンによる加筆を繰り返し、その成果である明暗のコントラストが織り成す劇的な表情と暗部の豊かな諧調に充実感を覚えていたようである。当時のルオーの容貌について、友人のフランスの哲学者でジャック・マリタン(Jacques Maritain、1882-1973)は次のように記しており、それはまるで自画像そのものを言い表しているかのようでもある。以下引用: 淡色のつねに目覚めている明るい眼、とはいえ、ものにじっと据えつけられるというよりは内部にむけられているその眼差し、激しい口許、突き出した額、以前にはブロンドの髪がふさふさしていた幅広の頭骨。かくのごとくに徒党と因習との、概していえば現代のあらゆる風俗の敵であるこの画家の表情には、何やら丸顔の道化師めいたもの、憐れみと辛辣、悪意と無邪気との思いもかけぬ混合があり、輝きは今も彼の洞窟(カーヴ)から流れている。1871年の巴里の砲撃の最中に、とある地下室(カーヴ)で彼は生まれたのだからである。 ●作家:Georges Rouault(1871-1958) ●種類:Print ●題名:Autoportrait II ●フォーマット:260x210mm(イメージ:229x170mm) ●限定:100 + 50 H.C. ●紙質:Japon Impérial ●発行:Éditions des Quatre Chemins, Paris ●制作年:1926 ●版画目録:Chapon and Rouault 342 註: 1. 2.「自画像I」(Chapon/Rouault 311)はエドモン・フラピエ出版から刊行された自身の『回想録』(限定385部)に所収。イメージサイズ:232x172mm 「自画像II」(Chapon/Rouault 342)はカトル・シュマン出版から刊行されたジョルジュ・シャランソル著『ジョルジュ・ルオー、人と作品』の特装版100部に添えられた。イメージサイズ:229x170mm 「自画像III」(Chapon/Rouault 343)は単独の版画作品として、パリのカトル・シュマン出版から白黒50部と色刷り100部が出版された。イメージサイズは345x250mmで、3点の中では一番大きく、帽子は被っていない
by galleria-iska
| 2016-05-23 20:44
| 版画関係
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