2017年 11月 25日
![]() 一見、無表情にも見える写真であるが、それは生の時間を切り取る従来型の写真ではなく、作家が対象に対して抱く感情を明快なコンセプトを基に、8x10の大型のビューカメラ(8x10 View Camera)で無作為的に撮影した結果であり、我々の写真に対する概念を覆すこととなった。そこに一貫して流れているのは、対象との物理的な距離や関係性ではなく、見る側に時間(停止した時間、流れている時間、動いている時間)の存在を強く意識させるということである。それらの作品は世界的に評価され、今や日本を代表する現代美術の作家となった杉本博司(Hiroshi Sugimoto, 1948-)氏は1948年、戦後の第一次ベビーブーム、いわゆる団塊の世代の真っ只中に生まれた。立教大学の経済学部を卒業後、世界各地を旅行、アメリカのカリフォルニア州パサデナにある美術大学(Art Center College of Design)で写真を学ぶ。生活費を得るために始めた古美術の販売で目を養い、その豊富な知識を活かした作品も数多く制作している。特徴的なのは、その写真が従来の写真の分野ではなく、影響を受けた現代美術の文脈の中で捉えられている点であろう。初期の代表作を集めたこの写真集は、現代美術の展覧会を企画・開催しているスイスのバーセルにある美術館クンストハレ・バーセル(Kunsthalle Basel)で1995年に行われた展覧会「Hiroshi Sugimoto Time Exposed」に合わせてドイツの出版社(Edition Hansjörg Mayer, Stuttgart)から刊行された図録と同時にロンドンの美術出版社テームズ・アンド・ハドソン(Thames and Hudson, London)から刊行されたもの。出版から3年後の1998年にアメリカの写真集を専門とする古書店から購入したのだが、そのころはまだ写真集のブームが来る前で、出版価格よりもずっと安く手に入れることが出来た。ただし、大手出版社が手掛けたことで発行部数が多かったのか、ブームになっても比較的緩やかな値上がりであった。現在の古書価格は百ドルから数百ドルといったところ。 写真集には最初のシリーズ『ジオラマ(Dioramas)』を始めとし、幾つかのシリーズが収録されているが、中でも、ブライス・マーデン(Brice Marden, 1938-)のミニマリズム色の濃いモノクロームの作品を彷彿させる、『海景(Seascapes)』シリーズの中の、画面を水平線で、杉本氏の云うところの“人類の始まりの記憶”である海と空とに二等分した「昼の海の景色」が好きで、価格もまだ数千ドルと手が出せないところまでは行っていない頃、その気になって入手を試みたが、サザビースなどのオークションではいつもこちらの思っている価格を超えてしまい、結局、手元に引き寄せることが出来ずに終わってしまった。今では限定25部のシートサイズが476x578mm(18¾ x 22¾ in)+ マウント:508x610mm(20 x 24 in)のもので数万ドル、限定5部のシートサイズが一メートルを超える大きなものになると、数十万ドルと、目もくらむような価格で落札されている。 ●作家:Hiroshi Sugimoto(1948-) ●種類:Photo Book ●題名:Hiroshi Sugimoto Time Exposed ●著者:Thomas Kellein(1955-).Translation by David Britt ●サイズ:250x303mm ●技法:Offset ●印刷:Staib+Mayer, Stuttgart ●発行:Thames and Hudson, London ●制作年:1995 ![]() ![]() ![]() ![]() ■
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by galleria-iska
| 2017-11-25 14:08
| 図録類
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