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ガレリア・イスカ通信

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2018年 01月 15日

金子國義の挿絵「Alice's Adventure in Wonderland」(1973)

金子國義の挿絵「Alice\'s Adventure in Wonderland」(1973)_a0155815_19463931.jpg

背徳的とも言えるマルキ・ド・サド(Marquis de Sade, 1740-1814)やジョルジュ・バタイユ(Georges Bataille 1897-1962)のエロティシズム文学や聖書にも深く傾倒し、文学と絵画の結合という類を見ない耽美的な画風を構築した画家、故金子國義(Kuniyoshi Kaneko, 1936-2015)の名を一般にも知らしめる契機となった作品と言えば、イタリアの事務機メーカー、オリベッティ社の依頼で制作した絵本「不思議の国のアリス(Alice's Adventure in Wonderland)」を思い浮かべる人も多いかと思うが、挿絵のひとつに水彩によるヴァリアントが存在していることはあまり知られていない。周知のように、採用された挿絵は扉絵以外全て鉛筆で描かれたモノクロームの作品であるが、金子は、1971年にミラノのナビリオ画廊(Galleria del Naviglio, Milano)での展覧会(註1)で作品を目にし、彼に挿絵を依頼した、当時オリベッティ社の文化部長を務めていた著作家のジョルジオ・ソアヴィ(Georgio Soavi, 1923-2008)に、1973年に水彩で描いた挿絵を三点(註2)を贈っている。その内の一点がこれ。細部に若干の違い(註3)はあるものの、サイズは使われたものと同じであることから、金子は当初、挿絵を水彩で描くつもりがあったのかもしれない。一方、鉛筆画に水彩で着色した他の二点は、扉絵と描き方が似ていることから、扉絵の候補であった可能性が高い。

この水彩画の存在を知ったのは、これらの挿絵を2010年頃にイタリアのミラノで開催されたオークションで手に入れたイタリアの美術愛好家が、親切にも画像と資料用写真(註3)を送ってくれたからである。画面下の余白に鉛筆で《Kuniyoshi Kaneko '73》と署名と年記が入れられているのが見える。

●作家:Kuniyoshi Kaneko(1936-2015)
●種類:Illustration
●題名:Illustration for Alice's Adventure in Wonderland
●フォーマット:380x285mm
●技法:Watercolor
●制作年:1973
●来歴:Ex-collection:Giogio Soavi


註:

1.展覧会の図録が残されている:(Galleria del Naviglio, Milano "572a mostra, dal 4 al 16 marzo, prima esposizione all'estero")

2.
金子國義の挿絵「Alice\'s Adventure in Wonderland」(1973)_a0155815_17324399.jpg
送ってもらった3枚の写真画像。扉絵用と思われる挿絵の写真はイメージ部分に焦点を当てて撮影したもので、フォーマットは約380x280mmである。

3.
金子國義の挿絵「Alice\'s Adventure in Wonderland」(1973)_a0155815_11494773.jpg
二つを並べて見ると、その違いがよくわかる。

by galleria-iska | 2018-01-15 19:50 | その他 | Comments(2)
Commented by Hiroshi Yamamoto at 2018-01-27 21:13 x
galleria iska 様
私、60~70年代のポスターが好きで少しづつ集めていますが、
その折にこのペイジを見つけて、収集の参考にさせていただいています。リキテンスタインのポスターの偽物は"Apple"が我が家にも有り大いに勉強になりました。
今回の金子國義の水彩で描いた挿絵三点の内の"ウサギ"を持っています。この"ウサギ"には金子國義のサインが無いので、生前に金子アトリエに聞きましたところ、「確かに金子の作品ですが、金子自身は良く覚えていないと言っている。」とのことでした。
今回来歴の一端を知ることが出来て感謝しています。
ありがとうございました。
Commented by galleria-iska at 2018-01-28 15:07
こんにちは。Hiroshi Yamamoto様、

当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

リキテンスタインの“偽物”については、ポスターだけでなく、版画作品についてもいろいろ報告されているようです。ポスターは金額が低いことから、訴訟を起こされる心配が無い、と思われているのかもしれません。また著作権が切れているものに関しては複製を自由に作れるので、それを利用している可能性もあります。しかしながら、それらが業者の手に渡ると、“本物(オリジナル)”として流通してしまう危険性を孕んでいます。細部のちょっとしたズレや紙質の違いが判れば見分けが付くのですが、額装されていると難しくなってしまいます。悪貨は良貨を駆逐する、と言いますから、気を付けていきたいと思います。

金子國義のウサギの水彩をお持ちでしたか。署名が無くとも本人の作品と確認されたわけですから、ご自慢の一品として大事になさって下さい。こちらこそ、貴重な情報をお寄せいただき、ありがとうございました。


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