ガレリア・イスカ通信

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2018年 02月 12日

フリードリヒ・メクセペルの銅版画「Drei Flaschen」(1967)

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1961年に東西冷戦下のベルリンからドイツ北部の都市ブレーメンの東約15kmにある芸術家村ヴォルプスヴェーデ(Worpswede)にアトリエを移し、ベルリンに再び移り住む1984年まで制作を続けた画家にして版画家のフリードリヒ・メクセペル(Friedrich Meckseper, 1936-)。迷路を初めとして、日時計、球、煙、壜といった、探究心をくすぐる謎を秘めたモチーフを組み合わせて描く作品は、その硬質な表現内容にも拘わらず、“書斎派”と思しき人種の知的好奇心を刺激し、1970年代から80年代にかけて日本でも大くの愛好家を獲得した。しかしながら、その様相はバブルの出現とともに一変してしまったようだ。“知的な遊び”というような大人の趣味性は色褪せ、絵画という虚構世界の構図が崩壊し、即物的な欲望に追い立てられる現在、メクセペルの作品を扱う画廊は数えるほどで、その価格もかつての10分の一ほどになってしまっている。

メクセペルの絵画空間は作家の関心の対象である“物”の組み合わせによって成立しており、シュルレアリスムの手法であるデペイズマンを意識したものでもなく、またアナグラムのごとき意味を転換させる作用はそこにはない。ただ、そこに何かしらの“付随的なもの(インシデント)”が組み込まれることで、静物画という静止した時空間に変化を与えている。

先に挙げたようなメクセペルの科学的な志向を反映していると思われる無機質な物を組み合わせた静物画は、どこかモランディの静物画の発想にも通じるものがあるようにも思われる。実際、1959年にはモランディの銅版画を思わせるモノクロームの銅版画作品「Flaschen」(Cramer 26)を描いている。ただ、モランディとは対照的に、正確に引かれた描線はいかにもドイツ的精神を感じさせるものがある。今回取り上げる、古いワイン壜のような、ずんぐりとした壜を描いた「三つの壜(Drei Flaschen)」は1967年に制作された銅版画で、それぞれの壜の左手前には色の異なる球体が置かれている。メクセペルにとって球体は完結した宇宙なのか、ひとつの観念の総体であるのか、いつも何かに寄り添うように置かれている。そこにアクアチントによる濃淡が空間を演出し、静物画を成立させているのだが、よく見ると、それも何かの枠組みであることが判る。1970年代、80年代を通して、私のような田舎者にとってメクセペルは高嶺の花であったのだが、その価格は今も緩やかに下降を続けており、20世紀美術が篩いに掛けられる中、もはやその下限に達しているのではないかとさえ思われる。今手元にあるのは、限定番号の振られていない、ドイツ語で試し刷りを意する"Probedruck”というもので、状態に難があるということで、何年か前に、ヨーロッパの業者からポスター並みの価格で手に入れたものである。前にも書いたが、メクセペルは版画家になる前に機関車の技師になろうとしていたほどの機械好きで、蒸気船を建造したり、ついには蒸気機関車を購入してしまうのだが、そんなメクセペルの正確な描線に感心しながらも、同時代性というか、作家が放つ磁力が弱まり、何かが抜け落ちてしまっているようにも思えてしまうのである。

●作家:Friedrich Meckseper(1936-)
●種類:Print
●題名:Drei Flaschen
●技法:Radierung(Strichätzung, Aquatinta, Kaltnadel, Sandpapier auf Kupfer)
●サイズ:365x498mm(Format:533x705mm)
●限定:75 + X
●発行:Edition Rothe, Heidelberg
●制作年:1967
●目録番号:Cramer 87
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陰影を付けたり、立体感を生み出すために使われるハッチングやクロスハッチングは、職人としての彫版師にとって必要不可欠な技法であり、デューラーのごとき超絶技巧とまではいかないにしても、メクセペルも巧みにこなしている。しかし一方で、画面から生気が失われ、一本調子になってしまうきらいがある。アクアチントによる陰影法はその弱点を補っているとも言える。
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by galleria-iska | 2018-02-12 13:27 | その他 | Comments(0)


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