2018年 03月 03日
静謐な画面に漂う詩情が時代の流れを超えて見る者に訴えかける木版画家の清宮質文(Naobumi Seimiya, 1917-1991)が手掛けた蔵書票(ex libris)は5点ほど知られている。これはその内のひとつで、日本書票協会(The Nippon Exlibris Association, Tokyo)発行の『愛書票暦:1969年~1972年』に所収。艶やかな色調が特徴の、ある意味清宮の画風からは最も遠い作品である。周知のように、蔵書票には誰が見ても分かるように、Ex-Librisという文字と蔵書の持ち主の名前を画面に入れるのが倣いである。日本ではEx-Librisや、そのカタカナ表記である“エクスリブリス”の他、“〇〇蔵”とか“〇〇蔵書”、また“〇〇愛書”という表記の仕方も多く見られる。その意味では、この作品はその約束事に沿っていないのだが、普通に考えれば、この蔵書票の依頼主の名前は“KURA”という人物で、“藏”という旧字体の文字が彫り込まれていると見ることができる。しかしながら、“藏”を依頼主の名前とは見ず、“〇〇蔵”の意と捉えるとすると、何かの理由、もしくは洒落で、敢えて名前を使わず、画面中の赤い丸-清宮がしばしば画面に描き入れる天体(月または太陽)ではないかと思われるのだが-と通常ならば依頼主と縁のある事物であるはずの何かの器(ガラス瓶あるいは焼き物?)のように見えるものとの組み合わせで依頼主の名前を言い表している可能性も考えられなくもない(註1)。しかしそれでは、依頼主の自己満足でないなら、見た者が持ち主の名前を推し量ることが難しいので、この見方には、ちょっと無理があるかもしれない。 ●作家:Naobumi Seimiya(1917-1991) ●種類:Ex-Libris ●題名:Ex-Libris Ueda from 『Ex Libris Calendar Album 1969-1972』 ●サイズ:38x29mm(フォーマット:49x41mm) ●技法:Woodblock print ●発行:The Nippon Exlibris Association, Tokyo(1957-) 前身:The Nippon Bibliophile Society, Tokyo(1943-1956) ●制作年:1969 註: 1.こちらの推測の方が正解に近かった。この作品の制作意図について作家が語っている言葉が見つかったので、引用しておく: 「票主の上田という文字が簡潔で美しく見えますので、上田蔵そのままを絵にすることにいたしました。これは静物のつもりです」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 2018年12月18日追記: 書票の発行を行った日本書票協会の創設者である志茂太郎(1900-1980)が書票解説の冊子として発行・配布していた『愛書会通信』に全文が記載されている(以下引用): 清宮質文
by galleria-iska
| 2018-03-03 13:47
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