2018年 04月 12日
昨年ぐらいからフランスのネットオークションに何度も登場するフランスのボルドー市在住の銅版画家フィリップ・モーリッツ(philippe Mohlitz, 1941-)の1972年の年賀状(註1)。鉛筆による署名が成され、70部限定とそれほど多くない。出品者のひとりは最初150ユーロとそこそこの値を付けていたが、落札者が現れなかった。そこで低い金額からの入札に変えたのだが、希望金額には届かず、再出品となったのだが、同じことを何度を繰り返すものだから、ますます値が上らなくなってしまった。最終的どうなったのかは不明。今年になって別の出品者が成り行きで出品するも、前のごたごたが影響したのか、金額が伸びずに終了してしまった。 年賀状が制作された1970年代初頭はモーリッツにとって稔り多き時期で、数多くの秀作を生み出している。ビュランは頗る繊細で、髪の毛よりも細い線を幾重にも重ねた画面は驚異としか言いようがない。この年賀状も、濃密な画面ではないものの、その時期の特徴をよく示している。メカニカルなものに興味を持つモーリッツの遊び心が発揮された画面は設計図のような透視画となっているが、それにはまた、メメント・モリ、死を想えという意味が込められているように思われる。というのも当時は激化の一途を辿るするベトナム戦争の最中であり、フランス国民も大きな関心を持っていたからである。それに対して、左側の余白にはモーリッツにしては珍しい水彩によるカットが添えられている。これもリマーク(Remarque)と呼ばれる版画の余白部分に描かれた絵や文字のひとつとであろうか。淡彩で即興的に描かれているのは、平和の象徴であるオリーブの木の枝を咥えた鳩かと思われるが、その儚さや脆さも表しているようにも見える。 画面左下には、一瞬インクの汚れかと思ってしまうのだが、大いなるビュランの先達アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer, 1471-1528)への敬意と挑戦か、1960年代の短い期間だけ使っていたフィリップ・モーリッツの頭文字〈P〉と〈M〉と組み合わせたモノグラムのサインが入っている。 ●作家:Philippe Mohlitz(1941-) ●種類:Carte de vœux ●サイズ:96x193mm(image:83x114mm) ●技法:Burin et pointe sèche, aquarelle ●発行:Philippe Mohlitz, Bordeaux ●制作年:1971 そのモーリッツも今年77歳。日本で言うところの喜寿である。それとは関係ないと思うが、今モーリッツの生まれ故郷であるフランス南西部の都市ボルドー市にあるボルドー美術館(Musée des Beaux Arts de Bordeaux)でモーリッツの銅版画の回顧展「フィリップ・モーリッツ-夢泥棒(Philippe Mohlitz - Pilleur de rêves)」(註2)が開催中である。会期は3月2日から6月4日まで。展覧会に際して図録も刊行されており、価格は9.9ユーロ(約1300円)とある。この美術館には一度しか訪れたことがないが、こじんまりとした建物で、そのときはピエール・ボナール展が行われていた。 註: 1. 2.
by galleria-iska
| 2018-04-12 18:39
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