ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ
2018年 06月 19日

バーバラ・クルーガー「Remote Control:Power, Cultures, and the World of Appearances」(1993)

a0155815_182157.jpg

1980年代に大きく頭角を現したアメリカのコンセプチュアル・アートの作家バーバラ・クルーガー(Barbara Kruger, 1945-)の作品を見ていて素直に思うのは、粗い画像のモノクロ写真と特徴的な赤地のタイポグラフィを用いて構成されたロシア・アヴァンギャルドのプロバンダ・ポスターであるが、フランス・ステラ(Frank Stella, 1936-)のロシアの幾何学的抽象絵画への歩み寄りと同様、それとの関連性についての言及-敢えて口に出さないでいるのか?-を見つけるのは難しい。しかしながら、クルーガーが1970年代にデザインした書籍のカバー(註1)を見ると、その思いは更に深まる。

クルーガーは高校卒業後、様々な分野で著名人を輩出しているニューヨーク州シラキュースにある私立のシラキュース大学(Syracuse University)に入学する。一年後、父親の死でやむなく籍を離れるが、1965年、ニューヨーク市のグリニッジ・ヴィレッジにある私立のアートとデザインの専門大学パーソンズ(Parsons School of Design)で美術を学び始める。教師には、写真家のダイアン・アーバス(Diane Arbus, 1923-1971)や写真家でグラフィック・デザイナー、アート・ディレクターのマーヴィン・イスラエル(Marvin Israel, 1924-1984)がいた。イスラエルの励ましによって、雑誌のグラフィック・デザインや写真の編集、ブックカバーのデザイナーとして幾つも雑誌社で職を得る一方で、美術雑誌の『アートフォーラム(Artforum)』や『リアルライフ・マガジン(Real Life Magazine)』に映画やテレビ、音楽にかんするコラムを書く。中でも1970年代初頭のブックデザインはフォトコラージュの手法を用いたポスターのような構成となっており、注目に値する。クルーガーは美術家としてニューヨーク市の画廊で1974年と75年に個展を開催するが、1976年、ニューヨークを離れ、カルフォルニアのバークレーに移り、カルフォルニア大学で4年間教鞭を取る。その中で1977年、クルーガーは後の作品に繋がる写真と短文あるいは単語を対位的に配したアーティストブック「Picture/Readings」を出版する。

クルーガーが大量消費や資本主義、フェミニズム、権力など現代社会を取り巻く様々な状況(問題)に主体的かつ直接的にコミットする姿勢は、個人的な生活を基点とする視点から発せられる言葉として、強い意思を感じさせる言葉が選ばれるのだが、モノクロの写真に乗せられる赤地に白抜きのタイポグラフィ(巷ではボックスロゴと呼ばれているらしい)-主にフーツラ・フォント(Futura Bold Oblique)とヘルベチカ・フォント(Helvetica Ultra Condensed)が用いられている-は、ある意味スローガンのような強いメッセージ性を帯びるとともに、赤と黒と白という強いコントラストが生み出す緊張感は見るものに強いインパクトを与える。

1993年にマサチューセッツ工科大学出版局(The MIT Press)から刊行されたこの「Remote Control」は、前述の美術雑誌『Artforum』に"Remote Control(遠隔操作)"と題して掲載されたコラムを始め、その他の雑誌(Esquire, the New York Times, Village Voice)に掲載された記事を集めたもの。装丁は勿論、クルーガー自身によるもの。1990年代の中頃だったと思うのだが、写真を用いた作品を制作していた作家からの依頼で、重要と思われる作家の写真集を探していた。その中で、先に述べたような思いもあって、個人的にクルーガーの作品が気になり、アメリカの美術書専門の書店から購入したのだが、図版などは一切載っておらず、がっかりした覚えがある。その代わりという訳でもないが、1990年にニューヨーク市にある大手美術書出版社ハリー・N・エイブラムス社から刊行された大型の作品集「Love for Sale -The Words and Pictures of Barbara Kruger」(Harry N.Abrams, Inc., New York, 1990)(註2)のソフトカバー版を注文することに。タイトルの「Love for Sale」と聞くと、アメリカの作詞・作曲家コール・ポーター(Cole Porter, 1891-1964)が1930年にブロードウェーのミュージカル「The New Yorkers」のために作詞・作曲した楽曲で、個人的には1958年にキャノンボール・アダレイのリーダー名義で発表されたアルバム「Somethin' Else」(Blue Note 1595)や1979年に日本で編集され、版画家の池田満寿夫(Masuo Ikeda, 1934-1997)がカバーアートを担当したマイルス・デイヴィスのアルバム「1958マイルス(1958 Miles)」(CBS/Sony)に収録されたものが思い出されるが、《売春婦》の視点を歌ったこの楽曲を、フェミニズムの視点から捉えれば、明らかに性差別の問題を孕んでおり、クルーガーが用いた両手で顔を覆う写真は、男を挑発する言葉(歌詞)のその背後にある生の声を表現していると見ることが出来るかもしれない。こちらはページ数はさほど多くないが、代表作には大きなスペースが割かれていて、なかなか見応えのある作品集となっている。

●作家:Barbara Kruger(1945-)
●種類:Writings
●著者:Barbara Kruger
●サイズ:235x160mm
●発行:The MIT Press, Cambridge, Massachusetts
●制作年:1993



註:

1.
a0155815_1392222.jpg
クルーガーの作品集「Love for Sale -The Words and Pictures of Barbara Kruger」(Harry N.Abrams, Inc., New York, 1990)掲載の図版:1971年に再版された「Capitalism in Argentine Culture」のカバーデザインである。現物を所持していないので、モノクロ図版を使っているが、実際の下地はオレンジ色。ただ、モノクロ図版の方が、アヴァンギャルド・ポスターのような訴求力を感じさせてくれる。

2.
a0155815_14581746.jpg

●作家:Barbara Kruger(1945-)
●種類:Monograph
●題名:Love for Sale - The Words and Pictures of Barbara Kruger
●著者:Kate Linker
●サイズ:318x267mm
●技法:Offset
●制作年:1990(Paperback edition:1996)
[PR]

by galleria-iska | 2018-06-19 18:39 | その他 | Comments(0)


<< フィリップ・モーリッツの画集「...      キース・ヘリングのカバーアート... >>