ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ

カテゴリ:その他( 129 )


2018年 11月 26日

パウル・ヴンダーリッヒのリトグラフ「Traum einer Odaliske」(1975)

a0155815_183056.jpg

贔屓の作家の評価の良し悪しは気にならない、と言ったら嘘になるが、昨今のパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)の凋落振りは凄まじく、目も当てられない。先日も、ネット・オークションでのことだが、限定番号、署名入りの正真正銘のリトグラフが一万円以下で落札されていた。ちょっとしたアート・ポスターよりもより安いのだから、業者間での取り引きは想像を絶するものであろう。ネット・オークションでの落札価格が作家本来の価値を決定するわけではないものの、何故にここまで安くなってしまうのだろうか。21世紀に入って、歴史的評価の波の中を潜り抜ける20世紀の作家の数はかなり絞られてきているのは間違いないとしても、生と死の間を生き延びたひとりの画家が到達した生の根源的証であるところのエロティシズムを根底とする作品は、ヴァーチャルな世界がかつての幻想を超えるヴィジョンを提示し得る今、もうそこから何も汲み取れれるものがないのだろうか。そしてこの先作品としての評価の俎上に上ることは、もうないのだろうか。

●作家:Paul Wunderlich(1927-2010)
●種類:Print
●題名:Traum einer Odaliske
●サイズ:762x579mm
●技法:Lithograph with Rainbow printing(Irisdruck)
●限定:100 + 8 e.a +8 e.e.
●制作年:1975
●発表価格:DM 1,200(F.FR. 2,000) ca. JPY 140,000
●目録番号:C.R.510

ドイツの画家兼版画家、また彫刻家でもあったパウル・ヴンダーリッヒは1960年代から70年代にかけて、ウィーン幻想派と共に一世を風靡した作家で、ピカソやシャガール、ミロと肩を並べる程の版画制作を行い、日本でも多くの愛好家を生んだことは知られている。今回取り上げるのは、ヴンダーリッヒが1975年制作した「オダリスクの夢(Traum einer Odaliske)」と題されたリトグラフで、ドイツでは版元がブルスべルク(Galerie Brusberg, Hannover & Berlin)からフォルカー・フーバー(Edition Volker Huber, Offenbach)に代わる頃であり、フランスではベルクグリューン(Berggruen & Cie, Paris)が販売元になっていた。ベルクグリューンの通信販売のカタログには1976年から79年まで載っており、価格は二千フラン(邦貨に換算すると、約14万円)となっている。1980年以降は入手が難しくなってしまったので、後発組の自分はドイツ・ケルンの画廊(Galerie Orangerie Reinz GmbH, Köln)での個展に合わせて作られた限定1000部の告知用ポスター(30ドイツ・マルク)(註1)を手に入れようと画廊に問い合わせたのだが、送料と送金手数料が思った以上に掛かることがわかり、ドイツ国内のポスター専門画廊経由で手に入れた。価格は、画廊の手数料が乗せられ、一枚50ドイツ・マルクだったように思う。このリトグラフ作品の特徴は、何色もの色からなるグラデーションを一版で印刷できるレインボー・プリンティング(独:Irisdruck)の手法を版画制作に取り入れたことであり、この作品では鳥(鷲?)の羽根部分に使われている。ヴンダーリッヒはこの作品を制作する少し前、1974年頃からこの手法を取り入れているが、エアーブラシで微妙な諧調を紡ぎだしているヴンダーリッヒの画風に違和感なく溶け込んでいる。

作品の主題については、ヴンダーリッヒは1970年に入ると、妻のカリン・シェケシーが撮影したヌード写真に基づく作品を制作する一方で、レオナルド・ダヴィンチやアルブレヒト・デューラーといったルネサンスの巨匠の作品の翻案(美術史家の千足伸行氏はパラフレーズ〈言い換え〉と呼んでいる)を幾度となく制作している。1973年には19世紀フランスを代表する画家のひとり、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780-1867)の絵画作品に基づく5点のリトグラフによる連続版画(Suite d'Ingres)を制作、ハレムの裸婦をモチーフとする”トルコ風呂(Le Bain Turc)”の翻案3点のうちのひとつ「Le Bain Turc III」の画面の外には、長く引き伸ばされた四肢が論議を呼んだ”グランド・オダリスク(La Grande Odalisque)”の構図が取り入れられている。1975年には、この作品と相前後して”グランド・オダリスク”の翻案となるリトグラフの版画作品「Odaliske (nach Ingres)」(左右逆の構図)を制作しているが、この作品では更にオダリスクの肢体が、マニエリスムに見られるような極端な強調、歪曲によって、もしくは写真における歪曲収差(ディストーション)の効果を取り入れた、幻想的で官能的エロティシズムを醸し出しており、このモチーフをヴンダーリッヒ独自のものへと変容せしめている。
a0155815_208783.jpg


ヴンダーリッヒはここでは、幾つもの象徴的とも言えるモチーフを組み合わせ、オダリスクの夢というテーマのもと、ハレムでスルタンの寵愛を受けるオダリスクは真っ赤に勃起した男根(ファルス)に肘をかけ、性愛に身を任せる姿を、官能的でエロティックに描いている。他方、地上を表すであろう画面下部には、原罪を連想させるイチヂクの葉と蛇にリンゴに象徴される知識の木の実を掴む手が小さく添えられ、画面上部には天界の主である神が太陽によって示され、その使者として鷲の羽根(もしくは天使のそれ)が何かを暗示するかのようにオダリスクの背景として描かれている。ヴンダーリッヒはこの女性の裸体像と羽根とを組み合わせた絵画や版画、彫刻作品をこの年から生み出しており、この作品がその切っ掛けとなった可能性もなくはない。

ヴンダーリッヒは自らの戦争体験を通じて、苦悩の時間を過ごしているが、破壊と殺戮の絶望の淵から逃れる唯一の方法は、善悪の彼岸を超えた性愛による没我の一時にあり、その悦楽の中にこそ偽らざる美(”原罪”としての生の根源的意味)を見い出すことができると、妻となる写真家のカリン・シェケシーとの共同作業の中で確信したのかもしれない。


註:

1.
a0155815_16555552.jpg
パウル・ヴンダーリッヒのオリジナル・リト・ポスター「Orangerie Cologne」770x580mm、Ed.1000.
[PR]

by galleria-iska | 2018-11-26 19:29 | その他 | Comments(0)
2018年 11月 17日

デイヴィッド・ホックニーの画集「Pictures by David Hockney」(1979)

a0155815_18354441.jpg

今朝、テレビのニュース番組を見ていたら、イギリスの現代美術の作家デイヴィッド・ホックニー(David Hockney, 1937-)が1972年に制作した「Portrait of an Artist(Pool with Two Figures)」(註1)が現存作家のオークション・レコードを更新したとのニュースが流れてきた。それによると、現地時間11月15日にニューヨークのクリスティーズ社(Christie's, New York)で開催された売り立て『Post-War and contemporary Art Evening Sale』(Sale 15974, Lot 9c)に出品され、手数料込みでUSD 90,312,500(約102億3135万円)で落札されたとのこと。美術関係のニュースとして取り上げられるのは大抵、今回のような浮世離れした高額な作品に関する話題であることが多い。そこには作品に対する理解を促すというような視点は何処にもない。何の脈絡もなく、その(覗き見的な)話題性のみで取り上げられるのだが、唐突に流される情報は、せいぜい一般人の美術品に対する高価で近寄りがたいという妙な偏見を助長するぐらいであろう。

この作品について、1976年に刊行された自伝的な画集「David Hockney by David Hockney」の中でホックニー自身が語っているのだが、それによると(註2)、1972年5月にニューヨークの画廊アンドレ・エメリック(André Emmerich Gallery, New York)で行われた個展の際の販売価格はUSD 18,000(約504万円/$=280で換算)で、出品作品の中では最も高額であった。この金額をホックニーが全額受け取るわけではないが、大変な苦労-特に水中を泳ぐ人物の歪みと水の揺らめき-を重ねて描いた作品なので、それ相応の金額であったことは間違いない。が、一旦その手を離れてしまえば、後に作品の価格が高騰し、今回のように100億円を超える金額で落札されても、作家には基本的には一銭も入ってこないのである。オークションで落札された作品については、作家の権利として、金額の一部を作家に還元するような仕組みが作られた筈なのだが、最近は聞こえてこない。

買い手の側からすると、購入した作品の価格が高ければ高いほど、所有者としてのステイタスを誇示できるわけだが、ぐれぐれも、この作品の買い手が、金満家よろしく最高額で購入し、果ては捨て値で売却してしまう日本人でないことを祈るばかりである。

随分前に知り合いの画廊の担当者から不要になったホックニーの作品集を何冊か頂いたことがあるのだが、その中に今回落札された作品を表紙に使った画集「Pictures by David Hockney」があったのを思い出した。この画集は、前述の画集「David Hockney by David Hockney」を、図版中心にコンサイスに纏めたもので、同じニューヨークの大手美術書出版社エイブラムス(Harry N. Abrams, Inc.,New York)から1979年にソフトカバーで出版されたもの。どういう訳か、表紙がいただいた時から黄身がかっており、原画の持つ清々しさが感じられなく、古ぼけた印象を受ける。それから40年近く経った昨年の2月から5月にかけて、ロンドンにある国立美術館テート・ブリテン(Tate Britain)で開催された60年間の創作活動を振り返る大規模な回顧展「David Hockney」に合わせて刊行されたソフトカバー版の図録「David Hockney」(註3)に、展覧会のハイライトとなったこの作品が使われているのだが、今回の高額落札の旗振り、あるいはお膳立ての役割を果たした、と言っては言い過ぎだろうか。展覧会はテート・ブリテンに続き、パリの国立美術館ポンピドウ・センター(Centre Georges Pompidou, Paris)に巡回、6月から10月まで開催された。ポンピドー・センターからは分厚い図録の他に、廉価版の図録「David Hockney L'Exposition/The Exposition」(註4)が刊行され、そちらにも同様にこの作品が使われている。巡回展の最後は、ニューヨークのメトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art, New York)で11月から今年の2月にかけて開催され、テート・ブリテンと同じ図録(ソフトカバー版)が使われている。

●作家:David Hockney(1937-)
●種類:Art book
●題名:Pictures by David Hockney
●サイズ:269x220mm
●技法:Offset
●発行:Harry N. Abrams, Inc.,Publishers, New York
●制作年:1979
●表示価格:$9.95
a0155815_18463224.jpg




註:

1.
a0155815_21503398.jpg
図版:David Hockney: Portrait of an Artist(Pool with two Figures) 1972. 242x305cm

クリスティーズ社の案内によると、この作品の来歴は以下のとおりである:

André Emmerich Gallery, New York
Mr. and Mrs. James Astor, London
William Beadleston, Inc., New York
Stephen Mazoh & Co., New York
David Geffen, Los Angeles, 1983
Acquired from the above by the present owner, 1995(クリスティーズは出品者の身元を明かしていないが、イギリスの富豪ジョー・ルイス(Joe Lewis)ではないかと言われている)

2.
a0155815_11594521.jpg
1976年に刊行された画集「David Hockney by David Hockney」の247~249ページに作品が描かれた経緯や販売での顛末についてホックニーが詳しく語っている。作品が生まれた経緯を要約すると、ホックニーがロンドンにある自身のスタジオにいたとき、地上の何かを見つめる男性-ホックニーの当時のパートナーで写真家のピーター・シュレシンジャー(Peter Schlesinger, 1948)であろうか-の写真と1966年にハリウッドで撮られた水の中を泳ぐ人の写真がたまたま2枚並んで床に落ちていたのを見てこの作品のアイディアが閃き、1971年に最初のヴァージョンを描き始める。切れ目無く6ヶ月も試行錯誤を繰り返したが納得いかず、仕上げることを断念、全く新しいものを描くことにする。そこでフランス南部にある英国人映画監督の家のプールを作品の舞台に選び、絵のモデル二人、彫刻家のモー・マクダーモット(Mo McDermott)とジョン・セントクレア(John St.Clair)という少年を連れて行き、そこで数百枚の写真を撮影。ロンドンに戻ってから、ピーター にも作品のためのポーズをとってもらう。個展に間に合わせるために2週間ほどで完成した作品は、1972年5月に開催された個展で、ドイツ出身のニューヨークの画商アンドレ・エメリック(André Emmerich, 1924–2007)によって1万8千ドルで販売された。が、その年の10月にはロンドンの業者の手に渡り、ドイツの美術見本市に。一年後にはジェームス・アスター(James Astor)なる人物が約5万ドルで購入している。 ホックニーの契約画廊であるカスミン画廊(Gallery Kasmin)を1963年にロンドンに設立したジョン・カスミン(John Kasmin, 1934)が個展に出品する作品を転売目的のヨーロッパの業者に売らないようアンドレ・エメリックに伝えていたのだが、ロンドン業者がニューヨークに住む金持ちという男を仕立てて作品を手に入れ、ロンドンに持ち帰り、高く転売したことが後で判った。一方、最初のヴァージョンは裁断し台無しにするが、切り刻むことはせず、その一部を別の作品に作り変え、他の作品のモデルを務めてくれたファッション・デザイナーのオシー・クラーク(Ossie Clark, 1942-1996)とテキスタイル・デザイナーのセリア・パートウェル(Celia Birtwell, 1941- )夫妻に、また出来栄えの良い部分は切り取り、友人のひとりに贈ったとある。1984年に翻訳版『ホックニーが語るホックニー』(小山昌生訳、パルコ出版)が出版されているので、詳細はそちらを参照していただきたい。

3.
a0155815_8512993.jpg
図版:テート・ブリテンでの展覧会に合わせて刊行されたソフト・カバー版の展覧会図録(280ぺージ)(価格:£29.99)
4.
a0155815_8514879.jpg
図版:ポンピドー・センターから刊行された廉価版の図録(60ページ)(価格:€9.50)
[PR]

by galleria-iska | 2018-11-17 21:56 | その他 | Comments(0)
2018年 10月 29日

アンリ・マチスの表紙絵「Les Fauves」(1949)

a0155815_17253651.jpg

今から30年以上も前のことになるが、画廊が多く立ち並ぶパリ6区の通りを歩いていたとき、数十メートル先にある画廊の窓際に見覚えのある作品が飾られているのが目に飛び込んできた。それまで実物にお目にかかることのなかったアンリ・マチス(1869-1954)の有名な挿絵本『JAZZ』所収の挿絵のひとつ「Icare(イカルス)」ではないか。興奮する気持ちを抑え画廊の側まで歩み寄ると、売り物らしく値札が付けられており、以外にも手を出せる金額なので、こんな機会は又と無いと思い、両替を済ませて戻ってきたときには消えて無くなっていた。《C'est la vie》 それ以来『JAZZ』との幸運な出会いはない。

マチスの挿絵本の最高傑作と言われる『JAZZ(ジャズ)』(Tériade Éditeur, Paris)は、1947年にフランスの編集者で出版人のテリアード(Tériade)の勧めによって制作された20点の切り絵をポショワールで印刷したもので、この挿絵本によってマチスの切り絵芸術は頂点に達したと言える。フォービズムで培われた鮮烈な色彩が単純なフォルムによって更に輝きを増し、画面はどれも華やかな色彩のハーモニーを奏でる。この作品でマチスはサーカス(マチスは当初この本の題名を「サーカス(Cirque)」としていた)や民話、旅の思い出などを題材としており、有機的で生命感溢れる形体が色彩に命を吹き込んだ。挿絵本の制作あたり、マチスは色彩の再現性に拘り、切り絵を元にしたポスターなどの印刷に使われたリトグラフや木版、カラー銅版による刷りを試したが、それらはマチスを満足させることが出来ず、刷り師の《Edmond Vairel》のアトリエで刷られたポショワールによる刷りを見たときに、コラージュの彩色に用いた(布地用?)グアッシュと同じ発色と質感を持ち、紙の上にインクが盛り上がるように乗せられたポショワール(ステンシル)を選んだのである。

出版人のテリアードは『JAZZ』」について、「切り紙絵は、(ハーモニー、メロディー、リズムと即興性に富んだ)ジャズの精神と一致します。音楽はマティスに欠かせないものでした。切り紙はジャズ音楽に似ていたのです。」と説明している。

以来、直に手に取れるマチスのポショワールによる作品はないものかと思っていたところ、マチスの版画作品と挿絵本の総目録(Catalogue raisonné)を編纂したクロード・デュテュイ(Claude Duthuit, 1931-2011)が1949年に“野獣派”と呼ばれる画家(マチスを初め、ブラック、ドラン、ヴァン・ドンゲン、デュフィ、マルケ、ヴラマンク等)を紹介した著書「Les Fauves(野獣派)」の表紙絵をマチスがデザインし、ポショワールで印刷されていると知り、その普及版を購入してみた。購入価格を抑えたため、状態はいまひとつではあったが、直にインクの質感を感じることが出来たのは収穫であった。マチスの生命感のある優美な曲線とは異なり、直線のみで構成された幾何学的ともいえる画面は無機的な表情を見せており、組み込まれた文字も若干刺々しさを感じられ、見た目の評価はそれほど高くない。これと同じような幾何学的な模様を使ったデザインが、マチスが1952年に“パリのクレベール画廊(Galerie Kléber, Paris) において、ムルロー工房でここ25年間の間に刷られた展覧会ポスターと工房の100周年を表明する”展覧会のためにデザインした告知用ポスターにも見られる。これらはマチスに色彩に関する実験的な試みのひとつかもしれないとも言えるのだが、絵画において装飾性は重要であると言っているマチスであっても、色彩の可能性を極限まで追求すると、最後は抽象的な文様に行き着くのだろうか。しかしながら、この表紙絵の限定版に施した5つの花弁の文様を見ると、マチスは純粋な抽象へ近づきはしたかもしれないが、装飾性を失うことはなかった、ということになる。
a0155815_17255752.jpg

●作家:Henri Matisse(1869-1954)
●種類:Cover art
●題名:Les Fauves
●著者:Georges Duthuit(1891-1973)
●サイズ:323x242mm(323x514mm)
●技法:Pochoir de soie(stenciled by hand)
●発行:Éditions des Trois Collines,, Genève
●印刷:Les Ateliers Artecolor, I.Et V.deGrandi,Corseaux-Vevey
●制作年:1949
●目録番号:No.100(Cowart, Jack:Henri Matisse Paper Cut-Outs, St. Lous Art Museum and The Detroit Institute of Arts, Distributed by Harry N. Abrams, Inc, New York, 1977)(註1)
No.113(Duthuit, Claude: Henri Matisse: Catalogue raisonné des ouvrages illustrés établi avec a collaboration de Françoise Garnaud, Paris, 1988) (註2)

a0155815_18491766.jpg

a0155815_18493383.jpg

a0155815_1825526.jpg




註:

1.Cowart, Jack:Henri Matisse Paper Cut-Outs, St. Lous Art Museum and The Detroit Institute of Arts, Distributed by Harry N. Abrams, Inc, New York, 1977. 288x225x27mm
a0155815_12432395.jpg

a0155815_1243468.jpg
表紙絵の下絵と、余白部分に五つの花弁を加え、マチスが署名を入れた限定版の図版を掲載。

2.(Duthuit, Claude: Henri Matisse: Catalogue raisonné des ouvrages illustrés établi avec a collaboration de Françoise Garnaud, Paris, 1988. 325x251x50mm
a0155815_1244169.jpg

a0155815_18552187.jpg
こちらは限定版の図版のみ掲載。
[PR]

by galleria-iska | 2018-10-29 18:45 | その他 | Comments(0)
2018年 09月 30日

清宮質文の蔵書票「Ex-Libris Kaz Tanaka(2)」(1961)

a0155815_2112586.jpg
   
木版画家の清宮質文(Naobumi Seimiya, 1917-1991)が1961年に小鳥をモチーフに制作した蔵書票「Ex-Libris Kaz Tanaka」は既に取り上げているが、今回は、日本書票協会(The Nippon Exlibris Association, Tokyo)発行の『愛書票暦1958-1961年』に所収のもので、和紙に刷られた1961年1月の暦に貼付されている。両者は同じ作品であるが、暦に貼付されたものには純白の和紙が使われ、作家手持分(注1)かと思われる方には生成りの和紙が使われている。

●作家:Naobumi Seimiya(1917-1991)
●種類:Ex-Libris
●題名:Ex-Libris Kaz Tanaka from 『Ex Libris Calendar Album 1958-1961』
●サイズ:56x50mm(フォーマット:86x80mm), Calendar:210x133mm
●技法:Woodblock print
●発行:The Nippon Exlibris Association, Tokyo(1957-) 前身:The Nippon Bibliophile Society, Tokyo(1943-1956)
●制作年:1961
a0155815_21121894.jpg
a0155815_21123020.jpg





注:

1.
a0155815_21404441.jpg

[PR]

by galleria-iska | 2018-09-30 16:17 | その他 | Comments(0)
2018年 07月 16日

レイモン・サヴィニャックの表紙絵「Nouvel Observateur, No.110」(1966)

a0155815_18142217.jpg

昨日は炎天下の中、連れ合いの車に同乗し、三重県立美術館で開催中の展覧会「サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法」に出掛けた。駐車場には遠方(主に関西圏)からの来館者の車が何台も止まっており、人気の高さを垣間見た。10年ぐらい前にサヴィニャックのブームがあったように記憶するが、今ではすっかり鳴りを潜めている。汗をかきかき階段をのぼって中に入ると、空調が効いていて、ひんやりと気持ちが良かったのだが、それも最初のうち。日曜日にも拘わらず、暑さのせいなのか、はたまた県内での知名度が低いのか、観客はまばらで、作品の細部までゆっくりと観察することが出来たのは良かったが、作品を見ていくうちに寒くなってしまった。

パリ市中に貼られた野外掲示用ポスターの基本フォーマットは160x120cm(実際はそれより小さくなることが多い)で、それが120x80cm、80x60cm、60x40cmとサイズを刻んでいくのであるが、今回の展覧会にはその基本フォーマットを何枚も組み合わせた巨大なサイズのものが何点も展示されており、見応えがあった。サヴィニャックはフランスのアール・デコを代表するグラフィック・デザイナー、カッサンドル(Adolphe Mouron Cassandre、1901–1968)が活躍した時代から少し下った1930年代後半にアールデコ様式のポスターを制作(註1)しているが、時既に遅しといった感で、注目を浴びることはなかったようである。サヴィニャックがポスター作家として世に出るのは1950年代で、「僕は41歳のときにモンサヴォンの牛のおっぱいから生まれたんだ」と自身語っているように、1949年に展覧会用に乳牛と石鹸を組み合わせて描いた「牛乳石鹸モンサボン(Mon Sabon au lait)」のポスターの原画がその切っ掛けを作った。サヴィニャックのポスターの多くは、ベルエポックと呼ばれる19世紀末からの流れを受け、リトグラフで印刷されている。健康的で明るいサヴィニャックの作品にはフランス人特有の風刺や皮肉、ブラックユーモアといった志向性はそれほど顕著ではなく、その辺の癖の無さに物足りなさを感じ、手を出したことはないが、リト刷りポスターを見ると、その手仕事感が時代の雰囲気のようなものを感じさせてくれるし、そこに漂う郷愁感もサヴィニャックの人気の要素のひとつとなっていたのかもしれないと思った。個人的には、以前招待状(註2)と図録を取り上げた、サヴィニャックが1978年にパリに創設されたポスター美術館(Musee De L'Affiche)の開館記念展のためにデザインしたポスター(サイズは117x82cm)が見たかったのだが、残念ながら今回の展覧会には出展されていなかった。ポスター以外にも、雑誌の表紙絵なども何点か見ることが出来た。ここで取り上げるのは、こちらも展覧会には出展されていないのだが、サヴィニャックが1966年のクリスマス時期に依頼を受けた1965年創刊のフランスの左翼系週刊誌『Nouvel Observateur』の表紙絵である。サヴィニャックは、この当時の雑誌の表紙デザインに沿うように、サンタ・クロースに国旗(ヨーロッパの国が中心であるが、アメリカ、中国、ソ連とともに、ベトナムの国旗も入っている)を繋げた旗を回転させて円を作らせている。

●作家:Raymond Savignac(1907-2002)
●種類:Cover art
●サイズ:343x275mm
●技法:Offset
●発行:Le Nouvel Observateur, Paris
●制作年:1966

a0155815_1814321.jpg
サヴィニャックの版上サイン。作家の署名は人生の節目節目で変わることが多いが、サヴィニャックのサインは初期から晩年まで殆んど変わっていない。


註:

1.サヴィニャックは1935年からカッサンドルが1926年に設立した広告デザイン事務所「アリアンス・グラフィック(Alliance Graphique)」でカッサンドルについてポスター制作を学んでいる。

2.
a0155815_12274894.jpg
パリのポスター美術館(Musée de l'Affiche→Musée de la Publicité)で1978年に開催された開館記念展の招待状
[PR]

by galleria-iska | 2018-07-16 18:45 | その他 | Comments(0)
2018年 07月 06日

フィリップ・モーリッツの画集「Mohlitz Gravures et Dessins 1963-1982」(1982)

a0155815_2036561.jpg

先月から《Windows Vista》搭載のブラウザー《IE9》があちこちのサイトから締め出しを食っている。決済を伴うサイトは、ほぼ全滅である。予備に導入した《FireFox》も最後通牒を告げてきた。PCはまだまだ使えるのだが、頭(OS)が旧いということで、お払い箱扱いなのである。こんな言葉が思い出される。『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』。何かと支障も出てきたので、仕方なく《Windows7》にアップグレードする準備を始めた。まずメールデータを新しいメールソフト《Thunderbird》に移し変える作業を行ったのだが、メールサーバーに接続時の初期パスワードを覚えているわけもなく、ガイドブックを探していると、PCを購入した際の納品書が出てきた。何気に目を通すと、《Windows7》への無料アップグレードのプログラム付きとある。すっかり忘れてしまっていた。慌ててサイトを確認すると、あぁ、なんということか。先月末日(6月30日)で終了してしまっていた!!!。

閑話休題、フランス南西部の都市ボルドーと言えば、19世紀の画家オディロン・ルドン(Odilon Redon, 1840-1916)の生まれ故郷であり、ルドンに銅版画を指導した版画家のロドルフ・ブレダン(Rodolph Bresdin, 1822-1885)も一時期ボルドーに移り住み、ルドンとの歴史的な邂逅を果たした場所として記憶される。その幻想的な画風の流れを汲むと言われる銅版画家フィリップ・モーリッツ(Philippe Mohlitz, 1941-)の名は学生時代に本屋で見た美術専門誌の季刊「みづゑ」(No.827,1974年2月号)のドイツ文学者の池内紀による特集記事によって知ることになったのだが、作品を直に目にすることができたのは、それから10年以上も経った1986年のことで、名古屋で行われた「ボルドー三作家展(ロドルフ・ブレダン、オディロン・ルドン、そしてフィリップ・モーリッツ)」の会場であった。当初の目的はルドンの作品にあったのだが、出品数は少なく、会場の殆んどをモーリッツの作品が占めていた。そこにはモーリッツの最高傑作と云われる1968年制作の「Le pendu(縊死人」(K.19)が二点も出品されており、高いほうの販売価格は45万円だったようにと記憶するが、突然目の前に姿を現したモーリッツのどこか時代錯誤的な画風をそのまま受け止めることができず、違和感を覚えた、というのが正直なところであった。ただし、その驚異的とも言える描写力には驚かされた。モーリッツを手中に収めるまでには未だ暫く時間を要することになる。なにせその頃の関心は一万円前後のアート・ポスターにあったので、モーリッツの版画はとても手を出せる代物ではなかったのである。

a0155815_20375218.jpg
表紙とダストカバーには1971年制作の「Le désert」(K.36)(部分)が使われている。この作品の特徴は海景に用いるような横長のフォーマットであり、それがパノラマ映画のような画面を生み出すのに一役買っている。そして画面を二分するかのように、大地の中央が川の流れ(?)によって侵食され、谷を形成。その谷に沿って視線はその奥に聳え立つアメリカの砂漠地帯で見られるような奇岩、あるいは空に浮かぶ三つの太陽へと導かれる。しかし主役はなんと言っても谷横の巨大な昆虫と思しき生物の死骸である。荒涼とした砂漠のどこにも人の営みなど無さそうにみえるのだが、羽の上に目を移すと、そこにはテントが張られ、谷を少し遡った川岸には何人か人の姿も見える。文明無き後(?)の世界において細々と生をつなぐ人間の姿は、象徴的な意味合いが込められているのかもしれないが、巨大な昆虫と比べると、あまりにも小さい。それは物理的な意味での違いなのか、存在の価値という尺度の違いだろうか。
a0155815_20381533.jpg
前の見返しには1977年制作の「La mobilisation」(部分)が使われ、原寸よりかなり拡大されているが、画面は全く破綻しておらず、ビュランでかくも微細な彫刻が出来るのかと、その精緻な描写力に目を見張る

最初に購入したモーリッツの作品は、単独の版画作品ではなく、フランス文学者で古書蒐集家としても知られる鹿島茂氏の著書「子供より古書が大事と思いたい」にも登場するパリのサン=タンドレ・デ・ザール街の古書店から取り寄せた、ビュランの名手長谷川潔が扉絵を担当し、モーリッツが挿絵を付けたマルセル・べアリュ(Marcel Béalu, 1908-1993)の「Ville volante(飛行する都市)」であった。この挿絵本、本の奥付にあたる部分に記されている挿絵の数は12点となっているのだが、実際に数えてみると11点しかなく、しばしば収集家を混乱させる。しかしながら、紙質を変えて刷られた挿絵のスウィートでは、ひとつの挿絵が二枚に分けて刷られており、それを数に入れると12点となるのである。ただそれはスウィート付きの豪華版を購入しないと判らないため、上記のような混乱を生じさせてしまうのである。

これまでに刊行されたモーリッツの版画の総目録(カタログ・レゾネ)は、1976年、当時、素描や版画のコレクションで世界有数の規模を誇るウィーンのアルベルティーナ美術館の学芸員であった美術史家のヴァルター・コシャツキー(Walter Koschatsky, 1921-2003)が著したラインホルト・ケルステン(Reinhold Kersten)編の「Mohlitz: Werkverzeichnis der Kupferstiche 1965-1976/Mohlitz: Catalogue of the copper engravings 1965-1976」(Offenbach del Meno, Edition Mohlitz- Dahlberg, 1977)のみであるが、如何せん作品の収録期間が短いため、今回取り上げるナチリス出版(Éditions Natiris)から1982年に刊行された「Mohlitz Gravures et Dessins 1963-1982」(注1)の方が良く使われている。今は2010年にメーダー出版(Mader éditions)-2011年に画廊(Galerie Mader)を開設-から刊行された「Philippe Mohlitz: Gravures et dessins 1965-2010」(序文:Maxime Préaud)であるが、共に詳細な作品および出版情報が記載されておらず、使い勝手はあまり良くない。モーリッツも今年齢77を数えることから、完全な形での目録の刊行が急がれる。

●作家:Philippe Mohlitz(1941-)
●種類:Catalogue raisonné
●題名:Mohlitz Gravures et Dessins 1963-1982
●サイズ:248x228mm
●発行:Éditions Natiris(Frédéric Daussy), Paris
●印刷:Imprimerie Abexpress, Bondy
●制作年:1982
モーリッツの作品の中には、漆黒の闇にぽっかり浮かんだり、群雲の中に見え隠れしたり、はたまた朧月のように、霧や靄などに包まれ、霞んで見えたりする、満月の夜の情景を描いた作品が幾つもあり、個人的に好みの作品群となっている。

a0155815_14581941.jpg

a0155815_20385871.jpg
a0155815_20391396.jpg
a0155815_20392591.jpg
a0155815_20393762.jpg
a0155815_20395889.jpg
a0155815_20401816.jpg
a0155815_20403390.jpg
この作品「Le temps modernes」(K.64)は、先に挙げたカタログ・レゾネ「Mohlitz: Werkverzeichnis der Kupferstiche 1965-1976」のデラックス版(限定100部)に付けられた。
a0155815_20404940.jpg
a0155815_20412172.jpg

a0155815_1572928.jpg

a0155815_20415752.jpg
後ろの見返しには1978年制作の「La tour」(部分)が使われているが、塔に群がる夥しい兵士たちの織り成す混沌(カオス)は、16世紀ドイツの画家アルブレヒト・アルトドルファー(Albrecht Altdorfer, ca.1480‐1538)の目も眩むような膨大な数の兵士を圧倒的な細部描写で描いた「アレクサンダー大王の戦い」を彷彿させなくもない。



注:

1.「Mohlitz Gravures et Dessins 1963-1982」の続編として1993年に刊行されたのが「Philippe Mohlitz: Gravures 1982-1992. Visions」(Éditions Ramsay, Paris, 1993)である。
a0155815_155928.jpg

a0155815_20443755.jpg

[PR]

by galleria-iska | 2018-07-06 21:23 | その他 | Comments(0)
2018年 06月 19日

バーバラ・クルーガー「Remote Control:Power, Cultures, and the World of Appearances」(1993)

a0155815_182157.jpg

1980年代に大きく頭角を現したアメリカのコンセプチュアル・アートの作家バーバラ・クルーガー(Barbara Kruger, 1945-)の作品を見ていて素直に思うのは、粗い画像のモノクロ写真と特徴的な赤地のタイポグラフィを用いて構成されたロシア・アヴァンギャルドのプロバンダ・ポスターであるが、フランス・ステラ(Frank Stella, 1936-)のロシアの幾何学的抽象絵画への歩み寄りと同様、それとの関連性についての言及-敢えて口に出さないでいるのか?-を見つけるのは難しい。しかしながら、クルーガーが1970年代にデザインした書籍のカバー(註1)を見ると、その思いは更に深まる。

クルーガーは高校卒業後、様々な分野で著名人を輩出しているニューヨーク州シラキュースにある私立のシラキュース大学(Syracuse University)に入学する。一年後、父親の死でやむなく籍を離れるが、1965年、ニューヨーク市のグリニッジ・ヴィレッジにある私立のアートとデザインの専門大学パーソンズ(Parsons School of Design)で美術を学び始める。教師には、写真家のダイアン・アーバス(Diane Arbus, 1923-1971)や写真家でグラフィック・デザイナー、アート・ディレクターのマーヴィン・イスラエル(Marvin Israel, 1924-1984)がいた。イスラエルの励ましによって、雑誌のグラフィック・デザインや写真の編集、ブックカバーのデザイナーとして幾つも雑誌社で職を得る一方で、美術雑誌の『アートフォーラム(Artforum)』や『リアルライフ・マガジン(Real Life Magazine)』に映画やテレビ、音楽にかんするコラムを書く。中でも1970年代初頭のブックデザインはフォトコラージュの手法を用いたポスターのような構成となっており、注目に値する。クルーガーは美術家としてニューヨーク市の画廊で1974年と75年に個展を開催するが、1976年、ニューヨークを離れ、カルフォルニアのバークレーに移り、カルフォルニア大学で4年間教鞭を取る。その中で1977年、クルーガーは後の作品に繋がる写真と短文あるいは単語を対位的に配したアーティストブック「Picture/Readings」を出版する。

クルーガーが大量消費や資本主義、フェミニズム、権力など現代社会を取り巻く様々な状況(問題)に主体的かつ直接的にコミットする姿勢は、個人的な生活を基点とする視点から発せられる言葉として、強い意思を感じさせる言葉が選ばれるのだが、モノクロの写真に乗せられる赤地に白抜きのタイポグラフィ(巷ではボックスロゴと呼ばれているらしい)-主にフーツラ・フォント(Futura Bold Oblique)とヘルベチカ・フォント(Helvetica Ultra Condensed)が用いられている-は、ある意味スローガンのような強いメッセージ性を帯びるとともに、赤と黒と白という強いコントラストが生み出す緊張感は見るものに強いインパクトを与える。

1993年にマサチューセッツ工科大学出版局(The MIT Press)から刊行されたこの「Remote Control」は、前述の美術雑誌『Artforum』に"Remote Control(遠隔操作)"と題して掲載されたコラムを始め、その他の雑誌(Esquire, the New York Times, Village Voice)に掲載された記事を集めたもの。装丁は勿論、クルーガー自身によるもの。1990年代の中頃だったと思うのだが、写真を用いた作品を制作していた作家からの依頼で、重要と思われる作家の写真集を探していた。その中で、先に述べたような思いもあって、個人的にクルーガーの作品が気になり、アメリカの美術書専門の書店から購入したのだが、図版などは一切載っておらず、がっかりした覚えがある。その代わりという訳でもないが、1990年にニューヨーク市にある大手美術書出版社ハリー・N・エイブラムス社から刊行された大型の作品集「Love for Sale -The Words and Pictures of Barbara Kruger」(Harry N.Abrams, Inc., New York, 1990)(註2)のソフトカバー版を注文することに。タイトルの「Love for Sale」と聞くと、アメリカの作詞・作曲家コール・ポーター(Cole Porter, 1891-1964)が1930年にブロードウェーのミュージカル「The New Yorkers」のために作詞・作曲した楽曲で、個人的には1958年にキャノンボール・アダレイのリーダー名義で発表されたアルバム「Somethin' Else」(Blue Note 1595)や1979年に日本で編集され、版画家の池田満寿夫(Masuo Ikeda, 1934-1997)がカバーアートを担当したマイルス・デイヴィスのアルバム「1958マイルス(1958 Miles)」(CBS/Sony)に収録されたものが思い出されるが、《売春婦》の視点を歌ったこの楽曲を、フェミニズムの視点から捉えれば、明らかに性差別の問題を孕んでおり、クルーガーが用いた両手で顔を覆う写真は、男を挑発する言葉(歌詞)のその背後にある生の声を表現していると見ることが出来るかもしれない。こちらはページ数はさほど多くないが、代表作には大きなスペースが割かれていて、なかなか見応えのある作品集となっている。

●作家:Barbara Kruger(1945-)
●種類:Writings
●著者:Barbara Kruger
●サイズ:235x160mm
●発行:The MIT Press, Cambridge, Massachusetts
●制作年:1993



註:

1.
a0155815_1392222.jpg
クルーガーの作品集「Love for Sale -The Words and Pictures of Barbara Kruger」(Harry N.Abrams, Inc., New York, 1990)掲載の図版:1971年に再版された「Capitalism in Argentine Culture」のカバーデザインである。現物を所持していないので、モノクロ図版を使っているが、実際の下地はオレンジ色。ただ、モノクロ図版の方が、アヴァンギャルド・ポスターのような訴求力を感じさせてくれる。

2.
a0155815_14581746.jpg

●作家:Barbara Kruger(1945-)
●種類:Monograph
●題名:Love for Sale - The Words and Pictures of Barbara Kruger
●著者:Kate Linker
●サイズ:318x267mm
●技法:Offset
●制作年:1990(Paperback edition:1996)
[PR]

by galleria-iska | 2018-06-19 18:39 | その他 | Comments(0)
2018年 05月 19日

シャルル・メリヨンの銅版画「Pêcheurs de la Mer du Sud」&「La Brebis et les deux agneaux」(1850)

a0155815_12211237.jpg

晩年に知人を介して知己を得、何度か食事を共にした愛書家で美術史家の故気谷誠(Makoto Kitani, 1953-2008)が愛した作家のひとり、銅版画家シャルル・メリヨン(Charles Meryon, 1821-1868)は1821年、イギリス人の内科医の父とオペラ座の踊り子だった母の間に生まれる。1837年にフランス海軍学校に入学、1839年から1846年にかけて、コルベット艦ル・ラン(Le Rhin)に乗船、世界各地(ニュージーランド、ブラジル、タヒチ)を航海する。1948年に退役後、絵を学び始めるが、色覚障害のため画家の道を諦め、銅版画家ウジェーヌ・ブレリ(Eugène Bléry, 1805-1886)の工房に入り、オールドマスター、殊にオランダ17世紀の海洋画家ゼーマン(Zeeman)こと、レイニエ・ノームス(Reinier Nooms, ca. 1623-1664)や動物画(特に羊)を得意とするアドリアーン・ファン・デ・ヴェルデ(Adriaen van de Velde, 1636–1672)の模刻を通してエッチングの手法を身に付ける。その成果は早速メリヨンの最初のオリジナル作品「Le Petit Pont」(1850~)に現れ、1850年から1854年にかけて制作した22点の連作版画集『パリのエッチング(Eaux-fortes sur Paris)』に結実する。

今回取り上げるのは、フランス19世紀の挿絵入り週刊誌『L'Artiste』ために、前述のゼーマンの原画「南の海の漁師たち(Pêcheurs de la Mer du Sud)」とファン・デ・フェルデの原画「雌羊と二匹の子羊(La Brebis et les deux agneaux)」をもとにしたエッチング2点を一枚の紙に刷ったもので、それぞれ第二ステートである。前者に関して言えば、画面左下に刻まれたメリヨンのモノグラム・サイン(C.M.-)が第二ステートでは"M."の後に"éryon"が別人の手で加えられ、"C.M.éryon"(註1)となっており、その刷りが東京の国立西洋美術館(The National Museum of Western Art, Tokyo)にも収蔵されている。ところが、この刷りでは、変更前の"C.M.-"のままであり、茶色のインクを用いて刷られた決定段階の前の試し刷りではないかと思われる。

●作家:Charles Meryon(1821-1868)
●種類:Print
●題名:"Pêcheurs de la Mer du Sud(South Sea fishers )", d'après Zeeman & "La Brebis et les deux agneaux(The ewe with two lambs)", d'après Adriaen Van de Velde
●サイズ:313x232mm(Pêcheurs de la Mer du Sud, 68x122mm, La Brebis et les deux agneaux, 79x105mm)
●技法:eaux-forte(etching)
●発行:La revue L'Artiste(une revue hebdomadaire illustrée française publiée de 1831 à 1904)
●制作年:1850
●目録番号:Schneiderman 18 & 8
a0155815_1344272.jpg
Pêcheurs de la Mer du Sud, 68x122mm, 1850(Schneiderman 18)
a0155815_1351866.jpg
a0155815_1352834.jpg
a0155815_1362576.jpg
La Brebis et les deux agneaux, 79x105mm, 1850(Schneiderman 8)
a0155815_1363739.jpg



註:

1.
a0155815_20202129.jpg
図版:第一ステートではモノグラム・サイン(C.M.-)だったものが、"M."の後に"éryon"が別人の手で加えられ、"C.M.éryon"となった第二ステートの決定段階の刷り(部分)。
[PR]

by galleria-iska | 2018-05-19 14:47 | その他 | Comments(0)
2018年 04月 12日

フィリップ・モーリッツの年賀状「Carte de vœux 1972」(1971)

a0155815_17564355.jpg

昨年ぐらいからフランスのネットオークションに何度も登場するフランスのボルドー市在住の銅版画家フィリップ・モーリッツ(philippe Mohlitz, 1941-)の1972年の年賀状(註1)。鉛筆による署名が成され、70部限定とそれほど多くない。出品者のひとりは最初150ユーロとそこそこの値を付けていたが、落札者が現れなかった。そこで低い金額からの入札に変えたのだが、希望金額には届かず、再出品となったのだが、同じことを何度を繰り返すものだから、ますます値が上らなくなってしまった。最終的どうなったのかは不明。今年になって別の出品者が成り行きで出品するも、前のごたごたが影響したのか、金額が伸びずに終了してしまった。

年賀状が制作された1970年代初頭はモーリッツにとって稔り多き時期で、数多くの秀作を生み出している。ビュランは頗る繊細で、髪の毛よりも細い線を幾重にも重ねた画面は驚異としか言いようがない。この年賀状も、濃密な画面ではないものの、その時期の特徴をよく示している。メカニカルなものに興味を持つモーリッツの遊び心が発揮された画面は設計図のような透視画となっているが、それにはまた、メメント・モリ、死を想えという意味が込められているように思われる。というのも当時は激化の一途を辿るするベトナム戦争の最中であり、フランス国民も大きな関心を持っていたからである。それに対して、左側の余白にはモーリッツにしては珍しい水彩によるカットが添えられている。これもリマーク(Remarque)と呼ばれる版画の余白部分に描かれた絵や文字のひとつとであろうか。淡彩で即興的に描かれているのは、平和の象徴であるオリーブの木の枝を咥えた鳩かと思われるが、その儚さや脆さも表しているようにも見える。

画面左下には、一瞬インクの汚れかと思ってしまうのだが、大いなるビュランの先達アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer, 1471-1528)への敬意と挑戦か、1960年代の短い期間だけ使っていたフィリップ・モーリッツの頭文字〈P〉と〈M〉と組み合わせたモノグラムのサインが入っている。

●作家:Philippe Mohlitz(1941-)
●種類:Carte de vœux
●サイズ:96x193mm(image:83x114mm)
●技法:Burin et pointe sèche, aquarelle
●発行:Philippe Mohlitz, Bordeaux
●制作年:1971
a0155815_1757280.jpg
a0155815_17571517.jpg


そのモーリッツも今年77歳。日本で言うところの喜寿である。それとは関係ないと思うが、今モーリッツの生まれ故郷であるフランス南西部の都市ボルドー市にあるボルドー美術館(Musée des Beaux Arts de Bordeaux)でモーリッツの銅版画の回顧展「フィリップ・モーリッツ-夢泥棒(Philippe Mohlitz - Pilleur de rêves)」(註2)が開催中である。会期は3月2日から6月4日まで。展覧会に際して図録も刊行されており、価格は9.9ユーロ(約1300円)とある。この美術館には一度しか訪れたことがないが、こじんまりとした建物で、そのときはピエール・ボナール展が行われていた。





註:

1.
a0155815_18311545.jpg
図版:年賀状の後に制作されたであろう「36人の登場人物に攻撃される英雄(Héros attaqué par 36 personnages)」の画面に、戦車やガスマスクを装着し戦車を操縦している死の象徴としての骸骨とよく似た人物を見出すことが出来る。"Héros attaqué par 36 personnages"(Kersten 39), 1972, burin et pointe sèche, 212x245mm, Ed50
a0155815_17574375.jpg
部分

2.
a0155815_18291475.jpg
図版:昨年に続き、今年5月26日にフランスで開催される国主催の版画祭(Fête nationale de l'estampe)に関連して、モーリッツの 生まれ故郷にあるボルドー美術館で6月4日まで開催されている銅版画家フィリップ・モーリッツ(Philippe Mohlitz, 1941-)の版画の回顧展 「夢泥棒(Pilleur de rêves)」の広告:Exposition Mohlitz au Musée des Beaux Arts de Bordeaux à l'occasion de la Fête de l'Estampe 2 mars - 4 juin 2018. À l’occasion de l’exposition Philippe Mohlitz. "Pilleur de rêves", un album reproduisant les œuvres de l’exposition est spécialement édité. Textes de Maxime Préaud, Johanna Daniel, Robert Coustet et Françoise Garcia. 52 pages. Format 26 x 26 cm. Tarif : 9,90 €. Edition du musée des Beaux-Arts de Bordeaux.
[PR]

by galleria-iska | 2018-04-12 18:39 | その他 | Comments(0)
2018年 03月 15日

清宮質文の蔵書票(4)「EX-LIBRIS Kaz Tanaka」

a0155815_11291986.jpg

“私は自分を詩人だと思っている”という言葉を残した木版画家、清宮質文(Naobumi Seimiya, 1917-1991)が1961年に制作した蔵書票。日本書票協会発行(The Nippon Exlibris Association, Tokyo)
の『愛書票暦1958-1961年』に所収。この蔵書票は前回取り上げた小鳥を題材とする作品「EX-LIBRIS Ella Engel」(1962年~64年)に先行する作品で、灰青色を基調としており、赤い木の実がアクセントになっている。ただしそこにあるのは、現実の鳥の姿を象ったものではなく、小鳥という存在に寄せた作家の想いである。その意味で清宮が好んで用いる青色は自己のうちにある詩的なイメージを表出するのに適しているのかもしれない。今手元にあるのは二代目で、海外の蒐集家から譲り受けたもの。

●作家:Naobumi Seimiya(1917-1991)
●種類:Ex-Libris
●題名:Ex-Libris Kaz Tanaka from 『Ex Libris Calendar Album 1958-1961』
●サイズ:56x50mm(フォーマット:86x80mm)
●技法:Woodblock print
●発行:The Nippon Exlibris Association, Tokyo(1957-) 前身:The Nippon Bibliophile Society, Tokyo(1943-1956)
●制作年:1961
[PR]

by galleria-iska | 2018-03-15 13:08 | その他 | Comments(0)