ガレリア・イスカ通信

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2018年 02月 27日

ジャスパー・ジョーンズの招待状「Brooke Alexander, Inc.」(1977)

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1968年に現代美術の作家の版画やマルティプルの出版を手掛ける版元としてスタートとしたニューヨーク市のブルック・アレクサンダー(Brooke Alexander Inc., New York)はその後、絵画や彫刻を扱う画廊として大きく発展。現在は画廊と出版部門を分離し、それぞれの特徴を生かした活動を行っている。今回取り上げるのは、1977年11月15日から翌年1月7日までブルック・アレクサンダー画廊で開催されたジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns, 1930-)の展覧会「Jasper Johns/Screenprints」 の招待状として作られたもので、展覧会に合わせて出版された図録(註1)の表紙「ジャスパー・ジョーンズのオリジナルのシルクスクリーン・プリント:Untitled(ULAE S.13), 1977」と同じイメージが使われている。展覧会はその後三年半かけて全米各地を巡回している。オフセット印刷のため、表紙と比べると若干色の冴えが落ちるのは仕方ない。表紙と招待状の刷りには、羊皮紙の風合いに似せて作られた半透明の用紙(Patapar printing parchment=硫酸紙)が使われ、ジョーンズのコラージュを用いた絵画作品のような絵の具の厚みや重層的な質感を生み出す効果を果たしているのだが、反面、紙質が硬く、折り目が割れたり、裂けやすいという欠点がある。

この作品のように画面に陰影を付けるために用いる技法であるクロスハッティング(crosshatching)をパターン化した抽象的な絵画作品が最初の現れるのは、1972年に制作された四つのパネルからなる作品「Untitled」の左端のパネルであり、1973年から翌74年にかけて制作された三つのパネルからなる作品「Scent(匂い)」においては画面全体がクロスハッティングによって構成されており、その後10年に渡ってジョーンズの主要なモチーフとなる。その中で特に印象的なのは1977年から制作された「Usuyuki(薄雪)」で、版画作品では、図録の表紙の刷りを行った版画工房シムカ・プリントアーティスツ(Simca Print Artists, Inc., New York)が1981年と82年に、京都で漉かれる黒谷楮紙(Kurotani Kozo paper)を用いて刷り上げた三つのパネルからなる「Usuyuki(薄雪)」が白眉であろうか。この展覧会は丁度「Usuyuki(薄雪)」の制作過程で行われていることになり、図録の表紙は大作への試金石と見ることもできるかもしれない。

ジャスパー・ジョーンズの作品は周知の通り、オークションでも現代美術の落札価格のレコードを更新するほどの作家であることから、到底手の届かない星のような存在であるが、先に挙げた「Usuyuki(薄雪)」もその落札価格が1千万円を超えることから、身近で現物を拝める機会は、まず無い。大分前に手放してしまった1967年制作のモノクロームのリトグラフ「Numbers」(ULAE 33)でさえ500万円近い値で落札されており、二度と手に入れることは出来ないであろう。そういう意味では、表紙と同じイメージを用いたこの招待状は、手元に置き、遥かに遠い巨星に想いを馳せることのできる数少ない資料と言えようか。
●作家:Jasper Johns(1930-)
●種類:Invitation
●サイズ:135x133mm(135x266mm)
●技法:Offset lithograph
●紙質:Patapar printing parchment
●発行:Brooke Alexander Inc., New York
●制作年:1977
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註:

1.ブルック・アレクサンダー画廊で開催されたジャスパー・ジョーンズのシルクスクリーン・プリントに焦点を当てた展覧会「Jasper Johns Screenprints」の図録。図録には1968年から1977年にかけて制作された14点の作品が紹介されており、表紙を含む9点をギャラリー向井の版画工房として1970年に東京とニューヨークに設立されたシムカ・プリントアーティスツ(Simca Print Artists, Inc., New York)が刷りを手掛けている。図録というか、表紙は現在では3000ドルぐらいしているが、当時は一般の美術愛好家や学生にでも手に入れることが出来るようにと10ドル($10)で販売された。254x254mm。
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by galleria-iska | 2018-02-27 22:14 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2018年 02月 14日

フリードリヒ・メクセペルの版画集の図録「The Nobel Prizes」(1983)

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スウェーデン最南部の都市マルメ(Malmö)にあるボルイェソン画廊(Galerie Börjeson, Malmö)は北欧有数の版元として、マルク・シャガール、ジョアン・ミロ、サルヴァドール・ダリ、アンディ・ウォーホルのような世界的に知られる作家や、池田満寿夫、元永定正、加山又造、吹田文明、中山正といった日本人作家の作品を数多く出版しており、ミロの画集やレゾネの翻訳版の出版も行っている。今回取り上げるのは、画廊設立者のボルイェソン氏が長年暖めてきた企画で、1983年に出版されたノーベル賞を称える版画集「The Nobel Prizes」を紹介する図録で、ノーベル賞各賞(物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学)の歴代受賞者リストと共に、画廊がノーベル各賞をテーマとした作品制作に相応しい作家として依頼したドイツの画家で版画家のフリードリヒ・メクセペル(Friedrich Meckseper, 1936-)による6点の銅版画作品が紹介されている。今手元に二冊あり、画像のものは、メクセペルの版元のひとつで、コラージュとオブジェの作品集「Homo Ludens I-III」の出版も行っているクレーフェルトのペールリングス画廊(Verlag Galerie Peerings, Krefeld)から、版画集の宣伝も兼ねて送られてきたもの。

ボルイェソン画廊からは同じ年、日本のノーベル賞受賞者へのオマージュ(Japanese novel laureates portfolio)として、「具体美術協会」のメンバーであった故元永定正(Sadamasa Motonaga, 1922-2011)による5点組みのシルクスリーン版画集「ノーベル賞オマージュ:ゆかわ、ともなが、ふくい、かわばた、さとう」も出版されている。メクセペルの版画集は手が出せなかったが、元永の版画集を一部購入した。随分と高い送料を払わされたのだが、到着してみると、思いの外しっかりした造りのクラムシェル型の箱(Cramshell box)、いわゆる夫婦箱に収められていた。また、版画家の池田満寿夫(Masuo Ikeda, 1934-1997)のメゾチントによるスウェーデンの劇作家ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(J.A Strindberg,1849-1912)の悲劇「令嬢ジュリー」を題材にした同名の5点組み銅版画集も同じ年に出版されていて、こちらも一部購入した。知り合いの画廊に見せたところ、ふたつとも譲って欲しいと頼まれたので、箱だけ残ってしまったのだが、深さがあるので、版画やポスターの保管箱として重宝している。

●作家:Friedrich Meckseper(1936-)
●種類:Catalogue
●サイズ:283x215mm
●技法:Offset
●発行:Galerie Börjeson, Malmö, Sweden
●制作年:1983
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by galleria-iska | 2018-02-14 21:00 | 図録類 | Comments(0)
2018年 02月 12日

フリードリヒ・メクセペルの銅版画「Drei Flaschen」(1967)

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1961年に東西冷戦下のベルリンからドイツ北部の都市ブレーメンの東約15kmにある芸術家村ヴォルプスヴェーデ(Worpswede)にアトリエを移し、ベルリンに再び移り住む1984年まで制作を続けた画家にして版画家のフリードリヒ・メクセペル(Friedrich Meckseper, 1936-)。迷路を初めとして、日時計、球、煙、壜といった、探究心をくすぐる謎を秘めたモチーフを組み合わせて描く作品は、その硬質な表現内容にも拘わらず、“書斎派”と思しき人種の知的好奇心を刺激し、1970年代から80年代にかけて日本でも大くの愛好家を獲得した。しかしながら、その様相はバブルの出現とともに一変してしまったようだ。“知的な遊び”というような大人の趣味性は色褪せ、絵画という虚構世界の構図が崩壊し、即物的な欲望に追い立てられる現在、メクセペルの作品を扱う画廊は数えるほどで、その価格もかつての10分の一ほどになってしまっている。

メクセペルの絵画空間は作家の関心の対象である“物”の組み合わせによって成立しており、シュルレアリスムの手法であるデペイズマンを意識したものでもなく、またアナグラムのごとき意味を転換させる作用はそこにはない。ただ、そこに何かしらの“付随的なもの(インシデント)”が組み込まれることで、静物画という静止した時空間に変化を与えている。

先に挙げたようなメクセペルの科学的な志向を反映していると思われる無機質な物を組み合わせた静物画は、どこかモランディの静物画の発想にも通じるものがあるようにも思われる。実際、1959年にはモランディの銅版画を思わせるモノクロームの銅版画作品「Flaschen」(Cramer 26)を描いている。ただ、モランディとは対照的に、正確に引かれた描線はいかにもドイツ的精神を感じさせるものがある。今回取り上げる、古いワイン壜のような、ずんぐりとした壜を描いた「三つの壜(Drei Flaschen)」は1967年に制作された銅版画で、それぞれの壜の左手前には色の異なる球体が置かれている。メクセペルにとって球体は完結した宇宙なのか、ひとつの観念の総体であるのか、いつも何かに寄り添うように置かれている。そこにアクアチントによる濃淡が空間を演出し、静物画を成立させているのだが、よく見ると、それも何かの枠組みであることが判る。1970年代、80年代を通して、私のような田舎者にとってメクセペルは高嶺の花であったのだが、その価格は今も緩やかに下降を続けており、20世紀美術が篩いに掛けられる中、もはやその下限に達しているのではないかとさえ思われる。今手元にあるのは、限定番号の振られていない、ドイツ語で試し刷りを意する"Probedruck”というもので、状態に難があるということで、何年か前に、ヨーロッパの業者からポスター並みの価格で手に入れたものである。前にも書いたが、メクセペルは版画家になる前に機関車の技師になろうとしていたほどの機械好きで、蒸気船を建造したり、ついには蒸気機関車を購入してしまうのだが、そんなメクセペルの正確な描線に感心しながらも、同時代性というか、作家が放つ磁力が弱まり、何かが抜け落ちてしまっているようにも思えてしまうのである。

●作家:Friedrich Meckseper(1936-)
●種類:Print
●題名:Drei Flaschen
●技法:Radierung(Strichätzung, Aquatinta, Kaltnadel, Sandpapier auf Kupfer)
●サイズ:365x498mm(Format:533x705mm)
●限定:75 + X
●発行:Edition Rothe, Heidelberg
●制作年:1967
●目録番号:Cramer 87
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陰影を付けたり、立体感を生み出すために使われるハッチングやクロスハッチングは、職人としての彫版師にとって必要不可欠な技法であり、デューラーのごとき超絶技巧とまではいかないにしても、メクセペルも巧みにこなしている。しかし一方で、画面から生気が失われ、一本調子になってしまうきらいがある。アクアチントによる陰影法はその弱点を補っているとも言える。
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by galleria-iska | 2018-02-12 13:27 | その他 | Comments(0)