ガレリア・イスカ通信

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2018年 04月 18日

サム・フランシスのポスター「Sam Francis Métaphysique du vide(II)」(1986)

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今回取り上げるのは、前回取り上げたポスターと対になるポスターで、こちらもパリの出版社フランシス・ドリル(Éditions Francis Delille, Paris)が、美術にも造詣の深いフランスの著作家ミシェル・ワルドベルグ(Michel Waldberg, 1940-2012)が1986年に著したアメリカの抽象表現主義に流れを汲む作家サム・フランシス(Sam Francis, 1923-1994)の1951年から1986年までの油彩とアクリルのよる絵画作品集「Sam Francis Métaphysique du vide」(Coll. Philosophie de Arts)の刊行に合わせて、広報用に出版したオリジナル・リトポスターである。同じ出版社から同年出版されたサム・フランシスのリトグラフによる6点組の版画集「Michel Waldberg:Poèmes dans le ciel」 所収の作品(Untitled, Lembark 273)(註1)と同じ版を用いて刷られている。印刷はパリのデジョベール工房(Atelier d'Art Desjobert, Paris)で行われ、通常のポスター用紙ではなく、透かしが入っていないので特定はできないのだが、薄手の版画用紙が使われている。

こちらのポスターでは、大きな余白は取られておらず、画面の中央付近を斜めに横切る抽象表現主義的な太く力強い描線が、ドリッピングによる即興性や偶然性に支配される空間に楔を打ち込んでいる。この作品を見ていると、サム・フランシスの技法は、染みのような表現を特徴とするタシシムのようなフランスのアンフォルメルを基点に、ジャクソン・ポロックのドリッピングの手法と抽象表現主義運動の創設者とされるロバート・マザーウエル(Robert Motherwell, 1915-1991)などのような無意識(Spontaneous)の描線などがミクスチュアされ、そこに東洋的な間(余白)の美学を加えることで他者にはないスタイル(画風)を築き上げたと見るべきか。とすると、鮮烈な色彩は逆にその間にある白を意識させるための演出として見ることもできるのかもしれない。

●作家:Sam Francis(1923-1994)
●種類:Poster
●題名:Sam Francis Métaphysique du vide(2)
●サイズ:843x558mm
●技法:Lithograph
●印刷:Atelier d'Art Desjobert, Paris
●発行:Éditions Francis Delille, Paris
●制作年:1986
●目録番号:Lembark 273(bis)
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註:

1.
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図版:リトグラフによる6点組の版画集「Michel Waldberg:Poèmes dans le ciel」 所収の作。Untitled(Lembark 273) from the portfolio "Michel Waldberg Poèmes dans le ciel" printed in colours, on Rives, signed in pencil, numbered(the total edition was 176), with text by Michel Waldberg, the set as published by Philosophie des Arts, Paris. 755 x 560mm

参考文献:

「The Prints of Sam Francis. A Catalogue Raisonné 1960 - 1990」(2vols)Francis, Sam and Connie W. Lembark. Introduction by Ruth E. Fine. Published by New York, Hudson Hills Press, 1992. Vol. I: Lithographs. Vol. II: Intaglio Prints, Screenprints, and Posters.
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by galleria-iska | 2018-04-18 19:03 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2018年 04月 18日

サム・フランシスのポスター「Sam Francis Métaphysique du vide(I)」(1986)

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今から思うと随分と羽振りの良かった(?)1980年代後半に手に入れたこのポスター、一度は手放したものの、まわりまわって無事(?)帰還と相成った。パリの出版社フランシス・ドリル(Éditions Francis Delille, Paris)が、シュルレアリスムの美術評論家として知られるパトリック・ワルドベルグ(Patrick Waldberg, 1913-1985)を父に持つ著作家のミシェル・ワルドベルグ(Michel Waldberg, 1940-2012)が1986年に著したアメリカの抽象表現主義の流れを汲むサム・フランシス(Sam Francis, 1923-1994)の1951年から1986年までの油彩とアクリルのよる絵画作品集「Sam Francis Métaphysique du vide」(註1)の刊行に合わせて、広報用に出版した2点組のオリジナル・リトポスターのうちのひとつ。同じ出版社から同年出版されたサム・フランシスの6点組の版画集「Michel Waldberg:Poèmes dans le ciel」 所収の作品(Untitled, Lembark 271)と同じ版を用いて刷られている。印刷は1960年代に菅井汲のリトグラフの刷りを手掛けたパリのデジョベール工房(Atelier d'Art Desjobert, Paris)が行っており、通常のポスター用紙ではなく、透かしが入っていないので特定はできないのだが、薄手の版画用紙が使われている。この工房は油絵の重厚感を意識したような少々重たい刷り上りを特徴とするムルロー工房とは異なり、その色抜けの良さが現代美術の作家に好まれたようである。

西洋人に取って意味を持たない空白を我々東洋人は余白として捉え、そこに大気や間というような形而上学的な空間を見出す。その美意識を学んだサム・フランシスは、筆を用いないドリッピングの手法を取り入れながらも、ポロックのようなオールオーバーな画面とは明らかに異なる作品を描き出している。余白そのものが中心(主題)となったこのポスターにはその特徴が顕著に現れている。


●作家:Sam Francis(1923-1994)
●種類:Poster
●題名:Sam Francis Métaphysique du vide(I)
●サイズ:860x560mm
●技法:Lithograph
●印刷:Atelier d'Art Desjobert, Paris
●発行:Éditions Francis Delille, Paris
●制作年:1986
●目録番号:Lembark 271(bis)
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註:

1.
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図版:ミシェル・ワルドベルグ著「サム・フランシス 空白の形而上学」1986年の書影。Michel Waldberg 「Sam Francis Métaphysique du vide」(coll. Philosophie des Arts), Francis Delille, Paris, 1986, 205pp.,232x167mm

参考文献:

「The Prints of Sam Francis. A Catalogue Raisonné 1960 - 1990」(2vols)Francis, Sam and Connie W. Lembark. Introduction by Ruth E. Fine. Published by New York, Hudson Hills Press, 1992. Vol. I: Lithographs. Vol. II: Intaglio Prints, Screenprints, and Posters.
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by galleria-iska | 2018-04-18 18:58 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2018年 04月 12日

フィリップ・モーリッツの年賀状「Carte de vœux 1972」(1971)

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昨年ぐらいからフランスのネットオークションに何度も登場するフランスのボルドー市在住の銅版画家フィリップ・モーリッツ(philippe Mohlitz, 1941-)の1972年の年賀状(註1)。鉛筆による署名が成され、70部限定とそれほど多くない。出品者のひとりは最初150ユーロとそこそこの値を付けていたが、落札者が現れなかった。そこで低い金額からの入札に変えたのだが、希望金額には届かず、再出品となったのだが、同じことを何度を繰り返すものだから、ますます値が上らなくなってしまった。最終的どうなったのかは不明。今年になって別の出品者が成り行きで出品するも、前のごたごたが影響したのか、金額が伸びずに終了してしまった。

年賀状が制作された1970年代初頭はモーリッツにとって稔り多き時期で、数多くの秀作を生み出している。ビュランは頗る繊細で、髪の毛よりも細い線を幾重にも重ねた画面は驚異としか言いようがない。この年賀状も、濃密な画面ではないものの、その時期の特徴をよく示している。メカニカルなものに興味を持つモーリッツの遊び心が発揮された画面は設計図のような透視画となっているが、それにはまた、メメント・モリ、死を想えという意味が込められているように思われる。というのも当時は激化の一途を辿るするベトナム戦争の最中であり、フランス国民も大きな関心を持っていたからである。それに対して、左側の余白にはモーリッツにしては珍しい水彩によるカットが添えられている。これもリマーク(Remarque)と呼ばれる版画の余白部分に描かれた絵や文字のひとつとであろうか。淡彩で即興的に描かれているのは、平和の象徴であるオリーブの木の枝を咥えた鳩かと思われるが、その儚さや脆さも表しているようにも見える。

画面左下には、一瞬インクの汚れかと思ってしまうのだが、大いなるビュランの先達アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer, 1471-1528)への敬意と挑戦か、1960年代の短い期間だけ使っていたフィリップ・モーリッツの頭文字〈P〉と〈M〉と組み合わせたモノグラムのサインが入っている。

●作家:Philippe Mohlitz(1941-)
●種類:Carte de vœux
●サイズ:96x193mm(image:83x114mm)
●技法:Burin et pointe sèche, aquarelle
●発行:Philippe Mohlitz, Bordeaux
●制作年:1971
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そのモーリッツも今年77歳。日本で言うところの喜寿である。それとは関係ないと思うが、今モーリッツの生まれ故郷であるフランス南西部の都市ボルドー市にあるボルドー美術館(Musée des Beaux Arts de Bordeaux)でモーリッツの銅版画の回顧展「フィリップ・モーリッツ-夢泥棒(Philippe Mohlitz - Pilleur de rêves)」(註2)が開催中である。会期は3月2日から6月4日まで。展覧会に際して図録も刊行されており、価格は9.9ユーロ(約1300円)とある。この美術館には一度しか訪れたことがないが、こじんまりとした建物で、そのときはピエール・ボナール展が行われていた。





註:

1.
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図版:年賀状の後に制作されたであろう「36人の登場人物に攻撃される英雄(Héros attaqué par 36 personnages)」の画面に、戦車やガスマスクを装着し戦車を操縦している死の象徴としての骸骨とよく似た人物を見出すことが出来る。"Héros attaqué par 36 personnages"(Kersten 39), 1972, burin et pointe sèche, 212x245mm, Ed50
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部分

2.
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図版:昨年に続き、今年5月26日にフランスで開催される国主催の版画祭(Fête nationale de l'estampe)に関連して、モーリッツの 生まれ故郷にあるボルドー美術館で6月4日まで開催されている銅版画家フィリップ・モーリッツ(Philippe Mohlitz, 1941-)の版画の回顧展 「夢泥棒(Pilleur de rêves)」の広告:Exposition Mohlitz au Musée des Beaux Arts de Bordeaux à l'occasion de la Fête de l'Estampe 2 mars - 4 juin 2018. À l’occasion de l’exposition Philippe Mohlitz. "Pilleur de rêves", un album reproduisant les œuvres de l’exposition est spécialement édité. Textes de Maxime Préaud, Johanna Daniel, Robert Coustet et Françoise Garcia. 52 pages. Format 26 x 26 cm. Tarif : 9,90 €. Edition du musée des Beaux-Arts de Bordeaux.
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by galleria-iska | 2018-04-12 18:39 | その他 | Comments(0)