ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ
2018年 01月 09日

版画の景色展のチラシ(1/4)「A View of Prints」(2018)

a0155815_11577100.jpg

松の内が過ぎると、毎年同じことを思う。最近は松飾り(門松)を立てる家も少なくなり、正月三が日を過ぎると、慌ただしく(!?)平時に戻ってしまう。スーパーなんぞは元日の朝九時から店を開け、正月気分に水を差すようなことを平気でやってのける。昔は、母親がお節を目一杯こしらえたので、松の内に平らげようと、食っちゃ寝、食っちゃ寝で体重が5kgも増えたこともあったが、この頃は一旦外に出ると、そんなのんびりした気分は、いっぺんに吹き飛んでしまう。この国の拠り所は経済しかないのだろうか...、と。

閑話休題、来週の火曜日(2018年1月16日)に埼玉県立近代美術館(The Museum of Modern Art, Saitama, Saitama)で始まる「版画の気色-現代版画センターの軌跡」展のチラシをいただいた。なかなか手の込んだデザインである。[版]というものの多様性を[文字組]に転換しようとする目論見が背後にあるのだろうか、字体のポイントを頻繁に変え、縦横混在する文字組みには、正直、困惑させられるのだが、一方で、文様らしきものへと変容し、読むという行為を敢えて二次的なものとするという点では、ユニークな試みかもしれない。とは言え、ここぞとばかりに詰め込まれた情報量の多さには驚かされる。PC無くしては処理できそうもない。欧米のそれは、日本人が発明した詩のひとつ「俳句」のような簡潔・簡素なものが圧倒的に多いが、日本のそれは、想像力が入り込む隙間のない、まるで分厚い[取り扱い説明書]を読むような煩雑さで、それだけで会場に行ったような気がしてくる、究極の親切なのだ。チラシは観音開きのような体裁になっており、開くと、内側には現代版画センターの活動を記した年表とともに、出品作家の名前が記載されており、まさに情報の洪水といった感がある。つくづく日本人は活字が好きな民族である。建前と本音によって成り立つ日本社会では、一瞬のうちに消えてしまう話言葉だけでは真意を汲み取るのは難しく、言葉の意味を主体とする中性化された存在(記号)へと変換することで、物事と平衡に向き合えるという側面があるからであろうと、勝手の想像してしまう。

内側にも幾つか図版が掲載されているが、表に一際大きく載っているのは、1981年に現代版画センターから出版された、虹のアーティストとして知られている靉嘔(Ay-O, 1931-)の「大きな透明な木」というシルクスクリーンの大型の版画作品。立体感すら感じさせるインクの乗りが妙に生々しく感じたので、拡大鏡を使って細部を確認したところ、オフセット印刷特有の網点が見えず、ひょっとしたらシルクスクリーンで印刷を行っているのかもしれないと、複製図版と知りながらも、ちょっと感動してしまった。もしそうであれば、美術館の意気込みの強さに感心してしまうのだが、実際はどうなのか確かめたく問い合わせたところ、オフセット印刷のひとつで、FMスクリーンという、微細な大きさの網点をランダムに分布させ、その密度によって濃淡を表現する印刷技術を用いたものであるとのことであった。これもデザイナーの拘りなのかもしれない。チラシは四種類作られ、靉嘔の他、元永定正(Sadamasa Motonaga, 1922-2011)、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)、ジョナス・メカス(Jonas Mekas, 1922-)の作品を使ったものがあるとのことであった。

展覧会のテーマとなっている現代版画センターの活動に関しては、よく知らない内に倒産してしまったので、残された活動記録で辿るほかないが、同社が版元となった作品は幾つか持っていたように記憶する。また、同社が倒産した後、1983年から翌84年にかけ開催された「アンディ・ウォーホル展」の際に刊行された図録『アンディ・ウォーホル展 1983-1984 オリジナル入りカタログ』を何冊か購入したのだが、手持ち用も知人に譲ってしまい、一冊も残っていない。ウォーホルが図録用に制作した“菊を”モチーフとするオリジナルのシルクスリーン・プリントが挿入されているためか、この図録、現在は随分と高値で取引されていると聞く。

●種類:Flyer
●題名:A View of Prints - The Trajectory of the Gendai Hanga Center
●サイズ:297x205mm(572x205mm)
●技法:FM Screen
●発行:The Museum of Modern Art, Saitama, Saitama
●制作年:2017
a0155815_11575484.jpg
靉嘔(Ay-O, 1931-)作の「大きな透明な木」1981年、シルクスリーン、90x150cm、限定85部
a0155815_11571962.jpg

a0155815_1231292.jpg

[PR]

# by galleria-iska | 2018-01-09 13:11 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2017年 12月 17日

写真家ハンス・ベルメール「Hans Bellmer photgraphe」(1983)

a0155815_17103922.jpg

ハンス・ベルメールが1968年(!)にパリの版元ジョルジュ・ヴィサ出版(Georges Visat, Paris)から刊行したサド作品をモチーフにした二色刷り10点組みの銅版画集『道徳小論(Petit Traite de Morale)』の美しさは、そのスキャンダラスな内容を感じさせない繊細で優美な描線にあると言っても過言ではない。日本国内でも著名な評論家を始めとしてベルメールの最高傑作に推す声が多かったように思う。ところが作品を最初に手にしたとき、そのあまりに穢れない線に、知人と二人で、まるで女性が描いているようだ、と、ちょっと不安に思ったのだが、その不安は後に現実のものとなった。ベルメールによって1967年から1975年に制作されたとされる銅版画は実はセシル・ランス(Cécile Reims, 1927-)というフランス系ユダヤ人の銅版画家によって彫版されたものであったことが公にされたのだ。つまり自画・自刻・自刷りではなく、浮世絵版画と同様、絵師、彫師、刷り師という完全なる分業制のもとで作品制作が行われていたということである。工房はその事実を掴んでいたのであろうか、という疑問が残るが、ベルメール自身が原版を工房に持ち込んでいたなら、見抜けなかったかもしれない。反対に、1966年以前の銅版画作品はベルメール自身によるものであることが証明されたわけではあるが。フランスの美術界では噂されていたようなのだが、混乱を恐れてか、口を紡ぎ語ろうとはしてこなかったのである。それよってベルメールの作品の価値が全く失われてしまうわけではないが、結果として、ベルメールの版画は値崩れを起こし、その神秘性が薄れてしまったことは確かである。

今回取り上げるのは、今から25年ぐらい前に、パリの書店・画廊アラントン(Arenton S.A.)の店主に勧められてというか、乗せられて購入したハンス・ベルメールの写真集「Hans Bellmer photographe」である。パリのポンピドゥーセンター国立近代美術館(Centre Georges Pompidou-Musée national d'art moderne, Paris)で、1983年12月21日から翌1984年2月27日にかけて、写真部長のアラン・サヤグ(Alain Sayag, 1935-1995)の企画により行われた写真家としてのハンス・ベルメール(Hans Bellmer, 1902-1975)に焦点を当てた展覧会「Hans Bellmer photographe」に合わせて刊行された写真集で、ベルメールのほぼ全写真を収録している。発行に関しては、パリのフィリパッキ出版(Éditions Filipacchi, Paris)とポンピドゥーセンターとの共同出版という形を取っている。ベルメールの高価な挿絵本を幾つも扱っていた先の店主が言うには、出版に対して異議申し立て-写真のモデルとなったウニカ・チュルンの遺族であろう-が起きていて、発禁処分になる可能性があるので、今のうちに買っておかないと手に入らなくなるかもしれないとのことだった。出版時の価格は178フランであったが、120フランにまけてくれると言うので、5冊ほど纏めて購入したのだが、販売出来なくなることを見越しての、在庫減らしだったのかもしれない。現物を見もせずによく購入に踏み切ったと我ながら感心する。送料を抑えるために船便での発送にしてもらい、二ヶ月ほど掛かって到着と相成った。

そのころ日本ではまだ陰毛が映っているだけで《有害図書》にされてしまっていたのだが、それを遥かに超える内容であったため、保管用に用意した箱に入れたまま暫く存在を忘れることにした。ようやく箱から取り出すことができたのは、到着から少なくとも5年以上経った1991年のことで、篠山紀信氏が人気女優をモデルに撮影したヌード写真集が公になったときである。我が国では全国の街の誰にでも見える場所に若い女性の裸体像が据えられているのだが、その道徳的影響に関しては不問にされる一方、芸術表現であったとしても、こと写真に関しては、《検閲》というか、取り締まりが先進国のなかでは飛び抜けて厳しく、医学専門書は例外として、陰毛一本たりとも、たとえそれが影であったとしてもである、公共の良俗に反するということで許されず、公刊する際には修正を強要されてきた。陰毛は頭髪と同じように身体の重要な部位(器官)を保護するために残された体毛であるのだから、それ自体が猥褻ではないことは自明であるのだが、上記の若い女性の裸体像における象徴性、あるいは自然の美という観点を持つ一方で、非常に歪曲された道徳観を植え付けられているのである。それに関連している事例として、我が国で刊行されたベルメールの写真集にまつわる出来事を記しておきたい。

原著から一年後の1984年にリブロポートから日本語の翻訳版「ハンス・ベルメール写真集」の初版が刊行されたが、当該箇所には画像が不鮮明になるよう“ボカシ”(リブロポートは巻末に写真を修正ではなく毀損したことを認め、関係者に対する謝罪(註1)を記している)が入れられており、この本の序文『写真家ベルメール』を書いたフランス文学者、エッセイスト、小説家、翻訳家の澁澤 龍彦(Shibusawa Tatsuhiko, 1928-1987)の受けた衝撃と驚き(註2)を体験できぬまま今日に至っている。澁澤はベルメールのサディスティックなエロティシズムに一際強い関心を寄せ、『ベルメールの人形哲学』(エッセイ集「少女コレクション序説」1985年、中公文庫所収)という一文を書いている。

表紙に使われているのは、1935年に撮られた“人形”をモチーフとする写真「La Poupée」であるが、あたかもカラー写真であるかのような手彩色を施され、倒錯したロリータ趣味を感じさせなくもないが、やはり『不思議の国のアリス』のイメージを強く彷彿させるものがあり、瀧口修造 と谷川俊太郎が詩を寄せている日本の写真家、沢渡朔(Hajime Sawatari, 1940-)の代表作で、そのピンク色のダストカバーを用いた装丁にも類似性が見られる写真集「少女アリス」(1991年)に何らかの影響を与えているのではないかと思われる。人形写真を撮影する1930年代からベルメールの写真の多くは二眼レフのローライフレックス6x6cm(Roleiflex 6x6)を使った正方形のフォーマットで撮影されているが、見る者の視点を画面の中心から逸らさぬよう、集中させることで、そこで起きている事の目撃者、あるいは共犯者と成す働きを持っているように思われる。

●作家:Hans Bellmer(1902-1975)
●種類:Catalogue
●サイズ:305x213mm
●技法:Offset
●発行:E.P.I.Éditions Filipacchi, Paris/Centre Georges Pompidou, Musee national d'art moderne, Paris
●制作年:1983
a0155815_17105385.jpg
a0155815_1711574.jpg


註:

1.原文そのまま引用:
「本書掲載図版中、別記の図版を毀損いたしました。読者各位及び原著者、図版版権保有者に深く謝意を表します。現行の法適用のもとで本書を国内出版するための止むを得ぬ措置と理解下さい。将来、当局の法適用に変化があり、当該図版を公刊可能な時期になりましたら、何らかの手段により毀損図版を正しい形で公刊する予定です。悪しからずご了承下さい。尚、当該図版および箇所の判断は、原著輸入の際に東京税関によって関税定率法第27条1項の3に該当する「風俗を害する物品」と認定された図版および箇所に致しました。111頁 112頁 114頁 115頁 120頁」


2.澁澤 龍彦 『写真家ハンス・ベルメール』 序にかえて(以下引用)
 
「これまでにもハンス・ベルメールの画集や写真集はフランスその他で何点か出版されてきたが、最近のポンピドゥー・センターにおけるベルメール展を機に刊行された本書ほど、ショッキングな美しさで見る者を魅了するものはないように思われる。おぼただしい未公開の写真が初めてまとまった形で公開されて、特異な写真家としてのベルメールの顔が一躍して大きくクローズアップされたからである。(中略)

しかも本書の見どころはそれだけではない。それよりも私たちにとってショッキングなのは、本書の後半に収録されたポルノグラフィックな匂いの濃厚な一群の写真、とくにベルメールの晩年に彼と同棲していた女流芸術家ウニカ・チュルンと緊縛ヌード写真であろう。これは人形ではなくて、生身の女体をオブジェとしての写真だ。(中略)

シュルレアリスムはよくよく性的な妄執と深い関係があるらしく、ときどき、このようなスキャンダラスな妄執の公開が私たちの好奇心に刺激をあたえてくれる。このベルメールの死後公開の写真集も、明らかにそういう系列の一つと見ることができるだろう。」

[PR]

# by galleria-iska | 2017-12-17 18:28 | 図録類 | Comments(0)
2017年 12月 08日

ヴィクトル・ブローネルの個展図録「Le Point Cardinal」(1963)

a0155815_1821672.jpg

以前、ユダヤ系ルーマニア人の画家ヴィクトル・ブローネル(Victor Brauner, 1903-1966)が1963年の4月から5月にかけてパリのル・ポワン・カルディナル画廊(Galerie le Point Cardinal, Paris)で行った個展の招待状(註1)を取り上げたことがあるが、今回はその図録である。表紙には招待状と同じイメージが使われている。描かれているのは、生と死、あるいは人間の生の二つの相である“覚醒”と“眠り”を表す頭部を上下に組み合わせたもので、フロイトの精神分析の根幹となる無意識と深く関わる夢を重要視したシュルレアリスムとの関連性も見て取れるかもしれない。自身をモデルに描いたとされる頭部は金色に塗られ、日本の蒔絵にも似た表情を見せており、漆黒の闇の中で光を反射し輝く。現実世界と眠りによって引き起こされる夢の中の世界は、意識と無意識とによって区分されるが、夢は現実世界でのストレスを補償する作用を持つとされている。現在は仮想現実というインターネットの空間が、夢の代わりを行っているところがあり、無意識的に自我を守ろうとするため、他者に対して驚くほど攻撃的になるケースが一種の社会問題ともなっているようである。

出品作品は、ブローネルが1961年から翌62年にかけて制作した近作を展示するもので、様式的には、デ・キリコ、サルバドール・ダリやルネ・マグリットを思わせる不条理な世界やデベイズマンと呼ばれる事物に有り得ない組み合わせを写実的描いた、所謂シュルレアリスムの典型とも言える作品とは異なり、晩年に現れる、少年時代に興味を抱いた動物学に端を発するであろう人間と他の生物との関係性を表すような、プリミティヴな傾向の絵画作品全44点からなる。図録の巻頭を飾るのはフランスのシュルレアリスムの詩人ルネ・シャール(René Char,1907-1988)が1938年に書いた詩『種子の顔(Visage de Semence)』で、この図録が初出となる。

招待状と図録の他に、マン・レイスト氏の云うところの、“展覧会の三種の神器”を構成する告知用ポスター(註2)、さらには限定60部のシルクスクリーンの版画作品「Autoportrait(自画像)」も同時に制作されており、それらにはエンボス加工が施されている。図録はそれほど高価ではなく、3千円~5千円(古書店価格)で入手可能。オリジナルデザインの告知用ポスターは未だ入手していないが、ヨーロッパでは人気があるようで、5万円前後と、まあまあ(?)の値が付いている。当然のことながら、版画作品はそれよりも高く、オークションでも15万円以上で落札されているので、画廊での購入価格はそれ以上になるであろう。

●作家:Victor Brauner(1903-1966)
●種類:Catalogue
●サイズ:186x140mm
●技法:Silkscreen
●発行:Galerie Le Point Cardinal, Paris
●印刷:Imprimerie Union, Paris
●制作年:1963
a0155815_17515384.jpg

a0155815_13123984.jpg

a0155815_17535154.jpg

a0155815_1754337.jpg



註:

1.
a0155815_1313236.jpg
個展の招待状(三つ折り)
a0155815_13131527.jpg
図版:個展の告知用ポスター。エンボス加工を施された頭部の不思議な文様に注目していただきたい。技法:Silkscreen with embossing(Sérigraphie en couleurs avec gaufrage), サイズ:665x500mm, 印刷:Imp. Union, Paris, 発行:Galerie le Point Cardinal, Paris
a0155815_13132855.jpg

[PR]

# by galleria-iska | 2017-12-08 13:24 | 図録類 | Comments(3)
2017年 11月 28日

アンディ・ウォーホルのカバーアート「Rats & Star: Soul Vacation」(1983)

a0155815_16514269.jpg

商業デザインナーとしてのアンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)の仕事の中で、レコードのカバーアートについては、民族音楽、クラシック、ジャズ、ロック, R&Bと広範囲に渡っており、プレポップ(1949年~1961年)の時代のみならず、ポップアーティストとして名を成した後も継続して依頼を引き受けているのだが、近年まで殆んど省みられることはなかった。その再評価に一役買っているのがインターネットであり、誰もが参加できるネットオークションという場の提供が、世界各地に点在する情報をもとにしたコレクションの形成を可能にしたのである。インターネットはまた、それまで個別にしか知られていなかった現代美術家によるカバーアートの存在に気付かせ、アートへの関心を複合的に高める働きを見せている。ウォーホルのカバーアートに関しても、こうした状況の中で新たな収集家を生み出しており、その成果(註1)が形となって現れたのが、2008年にカナダのケベック州にあるモントリオール美術館(The Montreal Museum of Fine Arts)で開催されたウォーホルがカバーアートを手掛けたレコードアルバムを含む展覧会「Warhol Live: Music and Dance in Andy Warho's Work」であり、その際、キュレーターで、カナダのモントリオールにあるケベック大学(The University of Quebec in Montreal)の教授、またウォーホルのポスターやイラストレーションの収集家としても知られるカナダ人のポール・マレシャル(Paul Maréchal)による総目録(Catalogue raisonné)「Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987」(註2)が刊行されたのである。それによってウォーホルの手掛けたカバーアート、特にウォーホル独特の“ブロッテド・ライン(滲み線)”を用いたプレポップの時代のものへの関心が一気に高まり、新たな発見も相次いだ結果、2015年には先の総目録の改訂版として原寸大のアルバムカバーを載せた「Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers」(註3)が刊行された。因みにウォーホルの最初のカバーアートの仕事はピッツバーグにあるカーネギー工科大学の美術科を卒業しニューヨーク市に出た1949年の「Carlos Chávez: A Program of Mexican Music」である。

現在、以下のサイトでウォーホルがカバーアートを手掛けたものと、没後に彼の作品をカバーアートに用いたSP盤, LP盤, EP盤、全146点(Andy Warhol's record cover art)を解説付きで見ることが出来る:

https://rateyourmusic.com/list/rockdoc/andy_warhols_record_cover_art/6/

今回取り上げるのは、ウォーホルのカバーアートの中で唯一の日本人アーティストのアルバム「Rats & Star: Soul Vacation」(Epic/Sony 28・3H-100)である。1983年にウォーホルが撮影した写真を基にデザインされたもので、レコードカバーの裏表がひとつの連続したイメージとなっている点が特徴である。しかし現状では、海外と比べアート作品としてのカバーアートに関心を持つ収集家は少なく、単に中古レコードとして流通しているため、価格は数百円から千円前後と割安である。ウォーホルの版上サイン入りのプロモーション用ポスター(註4)も同時に作られているが、そちらは数千円といったところ。

●作家:Andy Warhol(1928-1987)
●種類:Cover art
●タイトル:Rats & Star: Soul Vacation
●レーベル:Epic/Sony(28・3H-100)
●サイズ:315x315mm
●技法:Offset
●発売元:Epic/Sony Records Inc., Tokyo
●制作年:1983
a0155815_1652540.jpg

a0155815_1314110.jpg

a0155815_1851890.jpg



註:

1.ウォーホルのレコードのカバーアートに関する展覧会としては、ウォーホルの生誕80年の2008年7月にスウェーデン北部のペーテオにあるピーテオ美術館(Piteå Museum)での65種類のカバーアートによる展覧会が最初のもの。その展覧会の2ヶ月後にモントリオール美術館でウォーホルと音楽とダンスに関する作品展「Warhol Live: Music and Dance in Andy Warho's Work」が行われたのである。更に2014年6月から2015年3月にかけて、ミシガン州のブルームフィールド・ヒルズにあるクランブルック美術館の現代美術とデザイン部門のキュレーター、ローラ・モット(Laura Mott)によって企画された展覧会「Warhol-designed album covers Warhol on Vinyl: The Record Covers, 1949 – 1987+」があるが、いずれの展覧会も個人収集家のコレクションが核となっている。このような身近にあったものがアートとして認識され、作家の芸術活動の一環として捉えられていくのも、芸術の複製化の時代にあっては、当然の成り行きと言えるのかもしれないが、その中でインターネットが収集家に新しい視野をもたらしたことは注目すべきである。エフェメラに関して言えば、既に様々な形で情報発信を行い、マン・レイに関する新しい知見をもたらしているマン・レイスト氏に倣い、単なる受容者である立場から、個人ならではの特色あるコレクションを形成し、その価値の発信者として行動に移る時なのかもしれない。実際、ネット上には既に数多くのコレクションが紹介されているが、それらは個々の点の集まりに過ぎず、それらを有機的に結び付けるためにネットワーク化する必要がある。そのためには先ず、私の知らないところで既に構築されているのかもしれないが、コレクションへのアクセスを容易にするダイレクトリーの作成が求められる。それによって新たな発見や知見がもたらされれば、さらに多くの理解者や収集家を生み出すサイクルが生まれることになるのではないだろうか。その先にはネット上の仮想美術館の創設というものがあるのかもしれない。
2.
a0155815_18294452.jpg
図版:Paul Maréchal: Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987, 2008, The Montreal Museum of Fine Arts/Prestel Verlag, 236 pages lists 50 album covers with over 100 illustrations. Hardback, 310x310mm.
3.
a0155815_18315983.jpg
図版:Paul Maréchal: Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers, 2015, Prestel Verlag, 264 pages lists 106 album covers with 287 colour illustrations. Revised edition. Hardback 305x305mm.
4.
a0155815_1813788.jpg
図版:プロモーション用のポスター、サイズ:572x840mm、技法:オフセット、版上サイン入り、発行:株式会社Epicソニー、東京。
このポスターを共有するロンドンにあるテイト・ギャラリー(Tate Gallery, London)とスコットトランドのエディンバラにあるスコットランド国立美術館(National Galleries of Scotland)では、このポスターに次のような解説を付けている。以下引用:

This poster features the front and back designs for Rats & Star’s album ‘Soul Vacation’. The eighties Japanese pop group’s name originates in the belief that it is possible to be a ‘rat’, coming from a less prosperous background, and still become a star: a notion close to Warhol’s heart as the son of working-class immigrants. In the design by Warhol from 1983, he draws on this idea of advancement and progression with the left side appearing incomplete, showing the working process or beginnings of creating a screenprint. The right side then shows the finished portraits of the men as stars. He incorporates blocks of colour beneath a black print over which he has layered printed hand-drawn elements.

[PR]

# by galleria-iska | 2017-11-28 18:10 | その他 | Comments(0)
2017年 11月 25日

杉本博司の写真集「Time Exposed」(1995)

a0155815_1322840.jpg

一見、無表情にも見える写真であるが、それは生の時間を切り取る従来型の写真ではなく、作家が対象に対して抱く感情を明快なコンセプトを基に、8x10の大型のビューカメラ(8x10 View Camera)で無作為的に撮影した結果であり、我々の写真に対する概念を覆すこととなった。そこに一貫して流れているのは、対象との物理的な距離や関係性ではなく、見る側に時間(停止した時間、流れている時間、動いている時間)の存在を強く意識させるということである。それらの作品は世界的に評価され、今や日本を代表する現代美術の作家となった杉本博司(Hiroshi Sugimoto, 1948-)氏は1948年、戦後の第一次ベビーブーム、いわゆる団塊の世代の真っ只中に生まれた。立教大学の経済学部を卒業後、世界各地を旅行、アメリカのカリフォルニア州パサデナにある美術大学(Art Center College of Design)で写真を学ぶ。生活費を得るために始めた古美術の販売で目を養い、その豊富な知識を活かした作品も数多く制作している。特徴的なのは、その写真が従来の写真の分野ではなく、影響を受けた現代美術の文脈の中で捉えられている点であろう。初期の代表作を集めたこの写真集は、現代美術の展覧会を企画・開催しているスイスのバーセルにある美術館クンストハレ・バーセル(Kunsthalle Basel)で1995年に行われた展覧会「Hiroshi Sugimoto Time Exposed」に合わせてドイツの出版社(Edition Hansjörg Mayer, Stuttgart)から刊行された図録と同時にロンドンの美術出版社テームズ・アンド・ハドソン(Thames and Hudson, London)から刊行されたもの。出版から3年後の1998年にアメリカの写真集を専門とする古書店から購入したのだが、そのころはまだ写真集のブームが来る前で、出版価格よりもずっと安く手に入れることが出来た。ただし、大手出版社が手掛けたことで発行部数が多かったのか、ブームになっても比較的緩やかな値上がりであった。現在の古書価格は百ドルから数百ドルといったところ。

写真集には最初のシリーズ『ジオラマ(Dioramas)』を始めとし、幾つかのシリーズが収録されているが、中でも、ブライス・マーデン(Brice Marden, 1938-)のミニマリズム色の濃いモノクロームの作品を彷彿させる、『海景(Seascapes)』シリーズの中の、画面を水平線で、杉本氏の云うところの“人類の始まりの記憶”である海と空とに二等分した「昼の海の景色」が好きで、価格もまだ数千ドルと手が出せないところまでは行っていない頃、その気になって入手を試みたが、サザビースなどのオークションではいつもこちらの思っている価格を超えてしまい、結局、手元に引き寄せることが出来ずに終わってしまった。今では限定25部のシートサイズが476x578mm(18¾ x 22¾ in)+ マウント:508x610mm(20 x 24 in)のもので数万ドル、限定5部のシートサイズが一メートルを超える大きなものになると、数十万ドルと、目もくらむような価格で落札されている。

●作家:Hiroshi Sugimoto(1948-)
●種類:Photo Book
●題名:Hiroshi Sugimoto Time Exposed
●著者:Thomas Kellein(1955-).Translation by David Britt
●サイズ:250x303mm
●技法:Offset
●印刷:Staib+Mayer, Stuttgart
●発行:Thames and Hudson, London
●制作年:1995
a0155815_13223016.jpg
a0155815_13225865.jpg
                図版:[Interior Theaters]:Castro Sanfrancisco, 1992
a0155815_13231044.jpg
                図版:[Day Seascapes]:Indian Ocean, Bali, 1991
a0155815_13232512.jpg

[PR]

# by galleria-iska | 2017-11-25 14:08 | 図録類 | Comments(0)