人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ
2023年 11月 14日

フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)

フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_17144587.jpg
前回の記事の流れで、今回はパリのベルクグリューン画廊(Galerie Berggruen & Cie, Paris)から送られてきた招待状を取り上げてみたい。この招待状はベルクグリューン画廊で1996年に開催されたフェルナン・レジェ(Fernand Léger, 1881-1955)のグアッシュ、水彩、デッサンによる展覧会「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(註1)のオープニングへの招待状で、ベルクグリューン画廊最後となる真白な表紙の販売カタログ「Maitres-Graveurs Contemporains 1993」(註2)を刊行した三代目の女性ディーラー、ソワジック・オドゥアール(Soizic Audouard)らしい、写真のネガから発想を得たかもしれない意表を付くデザインで、二つに折ると、同時発行の展覧会図録の表裏表紙となる。この展覧会のポスターは未確認である。
フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_17013642.jpg
この招待状を受け取ったとき、何も印刷されていないように見えたが、光の当る角度を変えるとレジェの作品が浮かび上がる仕掛けになっていた。

フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_17012547.jpg
●作家:Fernand Léger(1881-1955)
●種類:Invitation
●サイズ:216x215mm
●技法:Silkscreen(Serigraphie)
●発行:Galerie Berggruen & Cie, Paris
●制作年:1996

                   



註:

1.ベルクグリューン画廊では1962年から何度もフェルナン・レジェの展覧会を開催しており、その都度展覧会の図録と告知用ポスターを制作している。両者にはレジェの過去の作品を使われ、パリのムルローやデジョベール工房によるリトグラフ印刷である。
フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_17105147.jpg
フェルナン・レジェのポスター「Léger Contrastes de Formes」600x450mm, Imp. Mourlot, Paris. 使われているのは「Contrastes de formes」(1913)
フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_17113103.jpg
フェルナン・レジェのポスター「Leger huilles, aquarelles & dessins」660x500mm, Litho. Desjobert, Paris - Typo: Imp. Union, Paris. 使われているのは「Les trois musiciens」(1920)

フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_18023946.jpg
フェルナン・レジェのポスター「Leger gouaches, aquarelles & dessins」680x480mm, Imp. Clot Bramsen et Georges, Paris. 使われているのは「Cylindres colorés」(1918)

フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_17115679.jpg
フェルナン・レジェのポスター[Leger gouaches, aquarelles & dessins」1979, 680x480mm, Imp. Clot Bramsen et Georges, Paris. 使われているのは「Cubist Guitar」(1919)

フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_14475213.jpg
ベルクグリューン画廊発行のフェルナン・レジェのポスターリスト(1984年版の販売カタログ「Maitres-Graveurs Contemporains 1984」から抜粋)。価格はXVI, XVIII, XIX, XXが30フラン(約750円)、XVIIが75フラン(約1875円)。現在はその20倍ぐらいで販売されている。

2.ベルクグリューン画廊最後の販売カタログ「Maitres-Graveurs Contemporains 1993」
フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_15364541.jpg
フェルナン・レジェ展の招待状「Fernand Léger gouaches, aquarelles & dessins」(1996)_a0155815_15312712.jpg
種類:Plaquette Berggruen No.104
題名:Maitres-Graveurs Contemporains 1993
サイズ:220x116mm
発行:Berggruen & Cie, Paris
印刷:Mani Fotolito, Florence(Firenze)
制作年:1992






# by galleria-iska | 2023-11-14 18:15 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2023年 11月 10日

アルフレッド・クームのポスター「Les gravures A. Courmes chez Antoine Mendiharat」(1996)

アルフレッド・クームのポスター「Les gravures A. Courmes chez Antoine Mendiharat」(1996)_a0155815_11592077.jpg
●作家:Alfred Courmes(1898-1993)
●種類:Poster
●サイズ:652x300mm
●技法:Offset
●印刷:Imprimerie Union, Paris
●発行:Galerie Berggruen & Cie, Paris
●制作年:1986

パリのベルクグリューン画廊(Galerie Berggruen & Cie, Paris)は1980年、設立者のハインツ・ベルクグリューン(Heinz Berggruen, 1914-2007)の助手を務めていたアントワーヌ・マンディアラ(Antoine Mandiharat, ?-1988)が二代目として経営を引き継いでから、展覧会の告知用ポスターに細長い縦長のフォーマットのものを使い始める。これはベルクグリューン画廊が長年使っている展覧会の図録に対応させるのが目的だったのかもしれないが、若干窮屈な感じがしないでもない。今回はその例のひとつとして、ベルクグリューン画廊が1986年、ポンピドゥー・センターの文化遺産部門の主任学芸員であったクリスチャン・ドルーエ(Christian Derouet, 1945-)の提供によって実現した、1920年代から1930年代にかけて、古くはボスやブリューゲルの北方ルネサンスの画家たちが行ったように、神話や宗教的な題材を画家が生きている時代の空間に取り込んだスタイルを創り上げ、戦後はシュルレアリスムにも接近したフランスの画家アルフレッド・クーム(Alfred Courmes, 1898-1993)の版画に焦点を当てた展覧会の告知用ポスターを取り上げる。このポスターはクームのオリジナル・デザインで、版画展ということなのだろう、画面を大きく取って、彫刻用の道具であるビュラン(burin)を持つ大きな手が描かれているのだが、シュルレアリスム的な発想であろうか、その手は手首から切り落とされ、切り口から血を流しながら遺跡らしきものにもたれ掛かっている、というショッキングな図柄となっている。手の周囲には、日常性とのギャップを演出するためであろうか、野生の草花や昆虫、時を告げる鶏、そして何故か卵(目玉?)らしきものが入った容器も描き込まれ、遠くにはエッフェル塔も見えている。同じ図柄を用いた図録(註1)も制作されている。

アルフレッド・クームのポスター「Les gravures A. Courmes chez Antoine Mendiharat」(1996)_a0155815_11594559.jpg
《Imprimerie Union, Paris》はオフセット印刷の美術印刷を専門に行ったパリの印刷所で、活動期間は1910年から1995年までとある。


アルフレッド・クームのポスター「Les gravures A. Courmes chez Antoine Mendiharat」(1996)_a0155815_11595715.jpg
ベルクグリューン画廊の告知用ポスターに二代目の名(Antoine Mendiharat)が記されるのは珍しい。

アルフレッド・クームのポスター「Les gravures A. Courmes chez Antoine Mendiharat」(1996)_a0155815_12000803.jpg
クリスチャン・ドルーエ(Christian Derouet, 1945-)はパリのポンピドゥー・センターの文化遺産部門の主任学芸員であり、またヴエズレーのゼルヴォス美術館(Musée Zervos, Vézelay)の学芸員も務めている。




註:

1.図版:展覧会の図録
アルフレッド・クームのポスター「Les gravures A. Courmes chez Antoine Mendiharat」(1996)_a0155815_12092971.jpg


# by galleria-iska | 2023-11-10 18:09 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2023年 11月 04日

リチャード・デイヴィスのポスター「Richard Davies」(?)

リチャード・デイヴィスのポスター「Richard Davies」(?)_a0155815_10500062.jpg
1986年にHIVを発症し、1991年に46才の若さで帰らぬ人となった夭折の版画家リチャード・デイヴィス(Richard Davies, 1945-1991)の(プロモーション用?)ポスター。使われているのは1986年に制作した「Vers une autre rive(もうひとつの岸に向かって)」という、意味深な題名が付けられた銅版画である。このポスターは名古屋でデイヴィスの個展を何度も開催し、日本での受容に大いに貢献したギャラリー・アートグラフ(Gallery Artgraph, Nagoya)のオーナーからいただいたもの。制作年は不明であるが、1986年以降であることは間違いない。

●作家:Richard Davies(1945-1991)
●種類:Poster
●サイズ:449x355mm
●技法:Offset
●発行:Unknown
●制作年:ca.1986(?)
リチャード・デイヴィスのポスター「Richard Davies」(?)_a0155815_10511153.jpg
リチャード・デイヴィスのポスター「Richard Davies」(?)_a0155815_11003992.jpg
こちらは1993年にリチャード・デイヴィスの版画作品を全て所蔵することとなったデッサンと版画を専門に扱うグラヴリーヌ美術館「Musée de Graveline, Graveline」での展覧会を機に刊行された図録「Richard Davies Oeuvre gravé et lithographié 1973-1991」で、デイヴィスの版画総目録となっている。発行部数が500部と少なく、稀少な資料である。

●作家:Richard Davies(1945-1991)
●種類:Catalogue
●サイズ:269x220mm
●題名:Richard Davies Catalogue de l'œuvre gravé et lithographié 1973-1991
●発行:Musée de Graveline, Graveline (Musée du Dessin et de l'Estampe originale)
●限定:500
●制作年:2000
リチャード・デイヴィスのポスター「Richard Davies」(?)_a0155815_11154088.jpg
リチャード・デイヴィスのポスター「Richard Davies」(?)_a0155815_11004805.jpg






# by galleria-iska | 2023-11-04 19:55 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2023年 11月 03日

ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)

戦後のパリで国際的に活動する作家の展覧会を開催する一方で、版元としても数多くの版画作品を世に送り出したベルクグリューン画廊(Berggruen & Cie, Paris)は、普及活動にも力を注ぎ、特徴的な縦長の体裁(Plaquette Berggruen)の通信販売用のカタログ「Maitres-Graveurs Contemporains」を発行し、世界中の業者や愛好家を獲得した。今回取り上げるのは、ベルクグリューン画廊から送られてきた、画廊の活動としては後期に当る1980年から1996年までに開催された展覧会の際に作られた図録4種で、あまり馴染みがないか、高額な作品が多いために手を出さずにいた作家ばかりである。
ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_11011149.jpg
アヴィグドール・アリカ(Avigdor Arikha, 1929-2010)のデッサンと銅版画(リトグラフも含む)による展覧会「Avigdor Arikha Dessins et Gravures」の図録,1980年刊。表紙には1977年に制作されたリトグラフ「Cyprès à Jérusalem(エルサレムの糸杉の木)」が使われており、告知用のポスターも同じイメージを使って作られている。印刷はともにムルロー工房である。図録には日本の様々な和紙を用いたデッサンや版画作品が何点も掲載されており、作家の和紙への関心の高さを窺い知ることが出来る。日本では1988年に東京のマルボロー・ファインアート東京「Marlborough Fine Art, Tokyo」で展覧会「アヴィグドール・アリカ展」が開催されている。

ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_17452058.jpg
心理学者で精神科医のジークムント・フロイト(Sigmund Freud, 1856-1939)を祖父に持つ画家で版画家のルシアン・フロイド(Lucien Freud, 1922-2011)の銅版画による展覧会「Lucien Freud, L'Œuvre gravé」の図録、1990年刊。厚塗りの絵の具の層が複雑に絡み合うことで生々しい肉感を生み出し、苦悩に満ちた人間の赤裸々な表情を描き出す独自の人物表現で肖像画家として地位を獲得したフロイドの版画は、飾り気のない線描のみの表現で見る者に迫ってくる。

ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_17460002.jpg
象徴主義を語る上で欠くことのできないドイツの画家、版画家、彫刻家マックス・クリンガー(Max Klinger, 1857-1926)の14の連作版画の試し刷りによる展覧会「Max Klinger Planche Gravees/ epreuves d'etat avant edition albums」の図録。1995年刊行。ベルクグリューン画廊の創設者で蒐集家のハインツ・ベルクグリューン(Heinz Berggruen, 1914-2007)の番頭で二代目の経営者となったアントワーヌ・マンディアラ(Antoine Mendiharat)が亡くなった後、ベルクグリューン画廊の在庫一切を引き継いだのは、ルーヴル美術学校(L'Ecole du Louvre)で美術史の専門教育を受けた女性ディーラー、ソワジック・オドゥアール(Soizic Audouard)であった。前にも書いたが、オドゥアールは写真に関する鋭敏で緻密、かつ興味深い洞察力を持ち合わせており、ディーラーとして、写真史に残る重要な作品の収集を行いつつ、2001年に画廊を閉めるまで、シュルレアリスムの作家やそれを引き継ぐ現代作家の作品を取り扱った。彼女は以前に取り上げたベルクグリューンの最後の通信販売用カタログ「Maitres-graveurs contemporains」の発行者でもあった。

ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_17463061.jpg
パリの書店兼画廊ラ・ユンヌ(Galerie La Hune, Paris)を設立したベルナール・ゲールブラン(Bernard Gheerbrant, 1918-2010)のコレクションによるルイ・マルクーシ(Louis Marcoussis, 1878-1943)の銅版画による展覧会「Marcoussis, Graveur - Collection Gheerbrant」の図録、1996年刊行。ポーランド生まれの画家で版画家のルイ・マルクーシは1910年代にキュビスムに参加し、キュビスムの作家として特筆すべき版画作品(註1)を幾つも残しており、日本国内の美術館でも代表作と呼ばれる作品を収蔵しているところがある。

ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_17465302.jpg
巻き折り部分を開いたところ


註:

1.
ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_17263028.jpg
1985年にヴィッキ(ー)、サンフォード・ワイス( Vicki and Sanford Weiss)のキュビスムの版画コレクション(Braque, Picasso, Marcoussis, Schelfhout, Malevich, Villon, Severini, Davies, Archipenko, Delaunay, Gleizes, Duchamp, Metzinger, Laurencin, and Carra)によるキュビストの銅版画作品の展覧会「Gravures Cubistes - Collection Weiss」が開催された際の告知用ポスター。1996年に開催されたマルクーシの展覧会でも出品されたギヨーム・アポリネールの肖像「Guillaume Apollinaire」(1912-1920)の非常に珍しい紅色のインクを用いて刷られた作品を使っている。ベルクグリューン画廊から送られてきたポスター、673x380mm、オフセット。このポスターは1996年の展覧会にもテキストを変えて使われ、画廊が送られてきたものがあったはずなのだが、二枚とも行方不明となっている。



-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
2023年11月7日追記:
案内状を保管してある箱の中から、マックス・クリンガー(Max Klinger, 1857-1926)の14の連作版画の試し刷りによる展覧会「Max Klinger Planche Gravees/ epreuves d'etat avant edition albums」の案内状が出てきたので画像をアップしておく。

ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_11281440.jpg
ベルクグリューン画廊の展覧会図録4種『Berggruen & Cie』(1980~1996)_a0155815_11252401.jpg
●作家:Max Klinger(1857-1926)
●種類:Annoucement
●サイズ:125x72mm
●技法:Offset
●発行:Galerie Berggruen, Paris
●制作年:1995










# by galleria-iska | 2023-11-03 20:45 | 図録類 | Comments(0)
2023年 10月 29日

雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)

雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_14550170.jpg
●作家:Milton Glaser(1929-2020)
●種類:Bimonthly Graphic Magazine
●サイズ:300x235mm
●発行:Walter Herdeg - The Graphis Press, Zurich
●印刷:Steetal AG, Seon
●制作年:1967

突然昔の話になってしまうが、父親の勤める紡績会社の長屋造りの社宅に住んでいた小学生の頃は毎日、学校から帰ると宿題もそこそこに近所の原っぱや畑でかくれんぼをしたり、三角ベースの野球ごっこをしたりして日が暮れるまで遊び、くたくたになって家に戻り、夕食を済ませると夜の8時には寝るという、何の目的も目標もない生活を送っていた。ところが、三、四年生の頃に、どういう風の吹き回しか、写真がどうこう言う理屈無しに、実物を目にしたことさえない一眼レフのカメラを買わねばと、月5百円の小遣いを貯め始めた。その目標は一種の強迫観念のように脳を支配し、盲目的な行為となって、他の様々な関心事から目を遠ざけることになってしまった。中学生になっても相変わらず月千円に増額された小遣いをせっせと貯金に回し、小学時代とは変わって今度は運動クラブの練習で毎日へとへとになって帰宅し、夕食を食べ、風呂に入って寝るだけの毎日を過ごしていた。そんな中で、何か本でも買って読もうなどとはついぞ思わなかったし、ましてや世にデザインの専門誌なるものが存在しているなんてことは想像だに出来なかった。今回取り上げるスイスの隔月刊グラフィック・デザイン誌『グラフィス(Graphis)』のその当時の日本国内代理店の年間購読料は7千4百円で、小遣いを遣り繰りすれば手に入れることも出来た金額であったが、存在さえも知らないものに興味が向かうはずもなく、たとえ目にしていたとしても、手にとっていたかどうか分からない。

今回取り上げるミルトン・グレイザー(Milton Glaser, 1929-2020)が描きかけのパレットらしきものをモチーフに表紙をデザインした第133号(1967年)は、たまたま探していたジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)が表紙をデザインしている第130号(1967年)(註1)と一緒に売られていたの古書店から手に入れたもので、1859年創立のニューヨーク市の私立大学クーパー・ユニオン大学(Cooper Union)で学んだミルトン・グレイザー(Milton Glaser, 1929-2020)とシーモア・クワスト(Seymour Chwast, 1931-)がエドワード・ソレル(Edward Sorel, 1929- )やレイノルド・ラフィンズ(Reynold Ruffins, 1930-2021)と共に1954年、ニューヨーク市にに設立したグラフック・デザインとイラストレーションのデザイン集団「プッシュピン・スタジオ(Push Pin Studio, New York)」を巻頭の特集記事として紹介している。この特集では上記四人の作品を中心に、後に参加した作家たちの作品も取り上げており、プッシュピン・スタジオを活動を概観できる内容となっている。その明快で親しみやすくユーモアに富んだデザイン志向は、見る者に心地よさを感じさせてくれると共に、人生を肯定的に捉えることができるエネルギーを発しており、カウンターカルチャーが時代を動かす原動力となった1960年代、様々な分野に活動の範囲を広げていくこととなった。

個人的にはミルトン・グレイザーやシーモア・クワストの作品、主にポスターであるが、に出会うことになるのは、もっとずっと後のことで、1980年代に入ってようやくグレイザーの「Big Nudes at The Visual Arts Gallery, New York, 1967」といった代表的なポスターを何点か手に入れる機会を得ることができた。それらはもう手元に残っていないが、”ビッグ・ヌード”から10年以上経ってプッシュピン・スタジオから抜けたグレイザーが新たにデザインした、同じくヌードをモチーフとする二枚組みポスター「Nude on the Music Hall Floor(dyptich)」(1978)は未だ手放さず手元に置いてある。一方、シーモア・クワストのポスター作品はかつてソニープラザが扱っていた頃に知り合いの販売店で目にしたのが最初の出会いであるが、ピーター・マックスを大人しくしたような色彩感覚は、軽妙洒脱と言えば聞こえはいいが、自分には食い足りなかった。

雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11093699.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11094882.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11100019.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11101265.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11102554.jpg
二つ目の注目すべき特集記事は、イラストレーター、漫画家、画家、小説家、劇作家、映画とテレビの作家、映画製作者、俳優と、無類の多才ぶりを発揮したローラン・トポール(Roland Topor, 1938-1997)のパリの書店兼画廊「Galerie La Pochade, Paris(ラ・ポシャド画廊)」での1967年の個展の際に公開された未発表デッサンを紹介するもの。ユダヤ系ポーランド人の子として1938年にパリで生を受け、人間によるありとあらゆる悍ましい行為が繰り広げらる中で幼年期を過ごしたトポールは、その生い立ちから来る経験が土壌となって、人間の残虐性をユーモアにまで昇華した作風で知られるが、なかなか日常生活の中では受け入れ難いものがある。この個展から10年経った1977年にアムネスティ(Amnesty International USA)からデザインを依頼された15人の作家のひとりとしてトポールがデザインしたポスター「Amnesty International」(Affiche de Topor pour un campagne d’Amnesty international en faveur des prisonniers de conscience en 1977)が、購入はしなかったが、自分にとってのトポール事始であった。こちらも1980年代に入ってからのことである。少し下って1980年代半ば過ぎた頃だろうか、知り合いの画商がパリの業者から仕入れた、シニャックやスーラの芸術を高く評価した美術評論家であり、前衛的美術雑誌『ルヴュ・ブランシュ』編集者であり、出版者であり、画商としてマチスの作品を扱い、アヴァンギャルド芸術のコレクターであり、アナーキストでもあったフェリックス・フェネオン( Félix Fénéon, 1861-1944)の『三行のニュース』によるリトグラフ10点組みの版画集「Nouvelles en trois lignes(三行ニュース)」(1975)を見せられたが、人間としてのトポールの背景を未だ知り得ておらず、その特異な画風に面食らっただけで、所有欲が起きるまでは至らなかった。画商も売るのに大変苦労したようで、最後はバラ売りにしてようやく売り切ることが出来たとのことであった。

トポールとベルギー出身のジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)は1960年代から友人関係あり、トポールのポシャド画廊での個展の二年前にフォロンがこの画廊で挿絵本「Organiser pour vivre』のデッサン展を開催している。また1972年には二人展(「Folon and Topor」April 4 through May 11, 1972. The Arts Club of Chicago, IL.)をシカゴで開催している。フォロンは人間社会に生じるの二項対立的な関係を一方の立場からのみ糾弾することなく、そのような対立を生み出す状況そのものの本質に焦点を当て、中立的な立場に立ち戻って考えてみる必要性を示唆する一方、自然との共生の中で平和に生きる人間を夢見るのであるが、トポールは現実の悪夢を暴力的に曝け出す。

雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11074349.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11075727.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11193049.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11084036.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11085691.jpg
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_11092016.jpg





註:

1.
雑誌グラフィス133号『Graphis』(No.133, 1967)_a0155815_16404937.jpg
●作家:Jean-Michel Folon(1934-2005)
●種類:Bimonthly Graphic Magazine
●題名:Graphis, No.130, 1967
●サイズ:300x235mm
●技法:Offset
●発行:Walter Herdeg - The Graphis Press, Zurich
●印刷:Merkur AG, Langenthal
●制作年:1967







# by galleria-iska | 2023-10-29 18:36 | その他 | Comments(0)